あれも聴きたいこれも聴きたい-ProcolHarum2
 プロコル・ハルムのセカンド・アルバムは傑作の誉れが高い作品です。アルバムの白眉はB面全部を占める5部構成の組曲「イン・ヘルド・トゥワズ・イン・アイ」です。深遠な意味のあるタイトルかと思いきや、5曲それぞれの歌詞の頭を並べただけということです。

 前作との比較で言えば、ギターが頑張ってきたなあという感じが強いです。やはりギターは黙っちゃおれないんでしょう。プロコル・ハルムの特徴だったマシュー・フィッシャーのオルガンの出番がかなり減ってきました。脱退まで秒読みが始まったと後知恵が教えてくれます。

 それでもクラシカルなムードはまだ色濃く、プログレの風味はむしろ増しています。前作が同じようなムードを持つ曲が並んでいたのに対して、今作では起承転結といいますか、アルバム全体で一つの作品となっています。なかなかの力作です。詩の朗読までありますから。

 このアルバムを語る時に忘れてならないエピソードがあります。それはロック評論家の大貫憲章さんの体験談です。彼が学生時代にロック好きの中学生の女の子を紹介され、その立派なお宅にお邪魔した時の話です。

 彼女は、このアルバム収録曲の一つ「マグダレーン」を、少し恥ずかしそうにピアノで弾いてくれたんだそうです。その中学生こそが、後のユーミン、松任谷由実だったというお話です。これは何度聞いても良い話です。

 ロック・マガジンの阿木譲氏も、「プロコル・ハルムのこのアルバムだけはなぜかいつも捨てきれずに大事にしていた」と書かれています。ロック・マガジンの推す音楽の系統ではなかっただけに妙に印象に残っています。

 派手なチャート・アクションもないむしろ地味な作品ですが、そうして意外な人々がそっと愛おしんでいる、そんな佇まいがよく似合うアルバムです。あまり人に教えずに秘かに聴いていたい、そんな気にさせる作品です。

 しかし、英国ではぱっとしなかったものの、米国では24位と健闘しています。そして、ダブル・キーボードのスタイルがザ・バンドのデビュー作に影響を与えたのではないかとも言われています。英国のザ・バンドと言われるプロコルですが、デビューはこちらが早い。

 ところで、このアルバムの邦題を「月の光」としたのは素晴らしいと思っていました。原題は「明るく輝く」ですが、歌詞の中では、月が明るく輝くということではなく、「正体を失った脳みそが明るく輝いている、全く狂ってる」ということになっています。

 それを「月=狂気」で「月の光」とは何と素晴らしい、と思っていたんですが、何のことはない、3曲目の副題が「マイ・ムーンビームス」なんです。そこから安直にとったのかどうかは知りませんが、それでも良い邦題であることには違いありません。

 ユーミンのせいばかりではないんですが、「マグダレーン」は本当にいい曲です。当時のプロコル・ハルムの全てがつまっている気がします。あまり人に教えたくないアルバムの中でも、最も人に教えたくない曲かもしれません。

参照:「ロック・エンド」阿木譲

Edited on 2017/9/16

Shine On Brightly / Procol Harum (1968 Cube)