あれも聴きたいこれも聴きたい-TonyAllen
 朝早く目が覚めてしまったけれども、ちゃんと起きるにはまだ少し間がある、そんな時にこのサウンドを流すのが好きでした。この上なく気持ちの良いサウンドに身を委ねていながら、次第次第に覚醒していく、その手ごたえが嬉しかったことを覚えています。

 本作は前作「ラゴス・ノー・シェイキング」の続編で、そのリミックスを中心にまとめた作品です。トニー・アレンは1940年生まれといいますから、この作品は68歳の作品ということになります。ただただ凄いです。理想的な68歳じゃないでしょうか。

 トニー・アレンはナイジェリアのスーパースター、フェラ・クティとともにハイライフとジャズからアフロ・ビートを作り出した人です。アフロ・ビートのゴッドファーザーとも呼ばれていますから、彼が名付け親なのかもしれません。

 彼はそれこそアフロ・ビートの定義のような人ですから、彼の叩きだすビートがアフロ・ビートであると言って間違いありません。迷った時にはアレンのドラムを聴けばよい。アフロ・ビートは他にもいくつか特徴がありますが、やはりこのとらえどころのないドラムは大きいです。

 アレンはインタビューに答えて、両手両足が4人の人格を持ったように刻むタイトなリズムが、違う動きをしていながら一つの同じポイントにシンクロナイズするときに生まれる独特のリズムをアフロ・ビートと言うと語ったことがあります。

 この説明だけではどんな音楽かさっぱり分かりませんが、耳を傾けてみると、あら不思議、あっという間に得心がいきます。へなへなのリズムからタイトなリズムまで、ぱたぱたした音から、どすどすした音まで、自由自在なドラムさばきです。自由闊達かつスピリチュアルです。

 田中昌氏はライナーで、「アレンのドラムはアフター・ビートにアクセントをつけないところに特徴があって、それはレッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムとは正反対のドラミングだと書かれています。さすがは評論家、なるほどと膝を打ちました。

 本作にはデトロイト・テクノの大物カール・クレイグを始め、いろいろな人が参加していて、彼の音楽がいかに音楽家たちに慕われているのかを示しているようです。クラブ音楽との親和性も極めて高く、多くの音楽家たちにとって競演してみたいと思わせる存在なんでしょう。

 私は、なかでもヒプノティック・ブラス・アンサンブルが参加している一曲目の「サンコファ」が気に入りました。この曲は「ラゴス・ノー・シェイキング」の一曲「ロスン」のトニーのドラムをモチーフに新たに作曲された曲で、夢の世界に向けて行進していくような響きが最高です。

 同じように「イセ・ンラ」をモチーフにレゲエに仕立てたのが「レゲエ・ランド・ダブ」、ドラムをサンプリングして作り上げたのが「マークス・ディスコ・ダブ」と「サンバ」、真正リミックスは4曲、オムニバス収録曲が2曲と出自はさまざまでも、見事にアレンの世界は統一されています。

 ヨーロッパのテクノ・マスター、モーリッツ・フォン・オズワルドやブラジルの「ボンジ・ド・ホレ」などさまざまなクリエイターが参加して「次世代を感じさせるダンス・チューンに構築させた」アルバムは、まさに「アフロ・ビートの進化型」と言えるでしょう。軽やかさがたまりません。

Edited on 2017/9/16

Lagos Shake / A Tony Allen Chop Up (2008 Honest John)