あれも聴きたいこれも聴きたい-Carpenters
 70年代前半のカーペンターズは、もちろん本国アメリカでも十分にスターでしたが、日本での人気もすさまじく、まさに洋楽界を超えたスーパースターと言ってよい状況でした。普段洋楽を聴かなくても、カーペンターズは例外、という人が多かったです。

 当時ロック少年だった私などは、カーペンターズ・ファンの子たちを馬鹿にしていたものです。当時、私にとっては洋楽は特別なものでしたから、日本人にも分かり易いカーペンターズのようなポップスは許せなかったんということです。何が「シング」かと。変な洋楽信仰です。

 そうやって馬鹿にしていたのは私だけではないと思いますけれども、そういう人に限って今でもカーペンターズを聴いていたり、カラオケで歌ってみたりするものです。いささかの贖罪と、幼かった若い頃の自分への叱責をこめて。

 この作品は日本でコンサートを見られなかった人々へのカーペンターズからの贈り物として発売されたものです。3万枚の入場券に38万通の応募があったということですから、その人気のほどが推し量られるというものです。

 あまりの人気に武道館公演はテレビ放映までされましたが、全国で見られたわけでもないですし、ビデオもない頃でしたから見逃した人も多かったはず、ということでこのアルバムの発売となりました。とても丁寧な対応です。

 ライブの雰囲気をとことん再現するために、MCはもちろん、開演のブザーの音まで収められていますし、アンコール近辺ではステージをのしのし歩く音まで聞こえます。当然、大ヒット曲は網羅していますし、「ナウ&ゼン」を再現するオールディーズ・メドレーが収録されました。

 カーペンターズ自身が今やオールディーズなので、オールディーズ・メドレーはオールディーズのオールディーズ、マトリョーシカ構造です。加えて「イエスタデイ・ワンス・モア」の指し示している昔の曲は「イエスタデイ・ワンス・モア」自体であるという円環構造です。面白いです。

 カーペンターズの魅力は何と言ってもカレン・カーペンターの歌声につきます。レオン・ラッセルやバート・バカラック、ポール・ウィリアムスなどの質の高い楽曲や兄リチャードの素晴らしいアレンジの腕前などは、すべてカレンを引き立てるためにあると思います。

 カレンの声は女性にしては低いですし、いわゆる綺麗な声ではありません。それに歌い方も技巧をこらすわけではなく、メロディーを忠実に、まるで教科書のように歌います。それにもかかわらず、とにかく人を感動させます。

 表現力とか歌手としての技量とか、そういう分析的な言辞を超えた凄さを感じます。この声のおかげでカーペンターズの歌は時代を超えていつまでも瑞々しいのだと思います。エディット・ピアフじゃないですが、電話帳を歌い上げてもきっと私は感動するでしょう。

 そういうわけで、オールディーズ・メドレーなどは今聴くと何だかなあと思ったりもしますが、ライブでも冴えわたるカレンの歌声が聴けるだけでもこのアルバムの価値は高いです。おまけに「シング」は綺麗な発音の日本語で歌われます。買って損はないアルバムです。

Edited on 2017/9/16

Live In Japan / Carpenters (1975 A&M)

レコードは大阪、放送は東京です。