あれも聴きたいこれも聴きたい-Runaways
 映画「ランナウェイズ」を見てきました。「アイ・アム・サム」のダコタ・ファニングがまあ立派になって、主人公の一人、シェリー・カーリーを熱演していました。それにしても、もう一人の主人公ジョーン・ジェットを演じたクリステン・スチュワートの似ていること似ていること。

 ランナウェイズは平均年齢16歳のガールズ・バンドとしてデビューしました。衝撃という言葉はまさにこのバンドのためにあります。何の予備知識もなく、いきなりテレビで彼女たちを見た時のことは忘れられません。

 京都ローカルのテレビ局、近畿放送でMTVより10年早く洋楽PVを流した番組「ポップス・イン・ピクチャー」に彼女たちが登場したんです。多くの方にはどうでもよい情報でしょうが、彼女たちは私の同級生です。まさに同世代。

 そりゃ衝撃です。当時、高校生だった私の目の前で、ガーターにコルセット姿でかわいい同級生が歌ってるわけですから。これに衝撃を受けずしてどうしようというところです。すぐにレコード屋に走って予約して手に入れたのがこの作品でした。

 ちなみに同時に紹介されたのがセックス・ピストルズでした。そちらも衝撃的でしたが、結局、私はこっちを選んでしまいました。そのことに後ろめたさを感じていないといえば嘘になります。社会への怒りよりはエロが勝つ。

 彼女たちはパンクでした。といいますか日本ではパンクとして売り出されました。レコード会社のキャンペーンは「R&R」、ラモーンズ&ランナウェイズでした。しかし、彼女たちは、ほどなくGOROやスコラといった雑誌を飾る悩殺爆弾として日本で大人気を博することになります。

 このバンドはロスの顔役キム・フォーリーがプロデュースしています。映画を見ますと、バンド自体を作ったのがキム・フォーリーのようです。映画によれば、ロック命のジョーンがキムに話を持ちかけて女の子ばかりを集めたバンドを作ったということです。

 作品はキム・フォーリーらしく、ちょっとブキブキしたポップなロックがつまっています。ジョーン・ジェットの持ち味とよくマッチしたんでしょう。「行きづまりの正義」のような芝居仕立ての曲もありますが、全編これキャッチーでブキブキのオールド・スクール・ロックです。

 代表曲「チェリー・ボンブ」(ボムですが)の他にも「アメリカン・ナイツ」「シークレッツ」なんかとてもいいです。後にこわもてのロック姉さんとなるジョーン・ジェットはその片鱗を見せていますし、シェリー・カーリーのボーカルもどすが効いていて、全然媚びてないところが素敵です。

 しかし、映画を見て複雑な気持ちになりました。日本での常軌を逸した大成功がバンドの解散をもたらしたんです。悩殺爆弾としての際物セクシー・バンドとして扱われたことが随分とこたえたようですが、日本の事情を分かっていません。

 彼女たちのおかげで日本でもガールズ・バンドが急増し、みんながランナウェイズをカバーしました。当時の日本の若者は、いかにマスコミが際物として扱おうと、彼女たちの姿を真摯に受け止めていたはずです。そのことが彼女たちに伝わってなかったとしたら、悲しいことです。

Edit 2015/12/29

The Runaways / The Runaways (1976 Mercury)