ギネス・ポピュラー音楽百科によれば、ペル・ウブの第二作に当たる本作品は、「衝撃は薄れてきたけれども、デビュー・アルバムの冒険センスを保持している」と随分控えめな賛辞が送られています。世間は圧倒的にデビュー作が好きなようです。

 しかし、この作品は私のペル・ウブ初体験となったこともあって、それこそ死ぬほど聴いたアルバムです。この作品のおかげで米国でもニュー・ウェイブが盛り上がってきたと誤解してしまったほどです。私にとってはペル・ウブ史上最高傑作です。

 私は当時このアルバムが好きすぎて、ロックの分かる友人たちに無邪気に勧めまくっていたのですが、誰も食いついてはくれませんでした。超絶アヴァンギャルドというわけでもないのにどうしてなんだろうと途方に暮れた思い出があります。

 欧州での公演を終えたペル・ウブの面々は、一気呵成にこのアルバムを仕上げました。バンドのメンバーは前作と同じです。ただし、この間、後にビル・ラズウェルとのコラボなどで有名になるクリーブランド出身のアントン・フィアがドラムを叩いていた時期がありました。

 このアルバムは「ダブ」とありますが、ダブ・サウンドとは関係ありません。ボルティモアに立ち並ぶ無味乾燥なアパート群を指す言葉だそうです。無造作につけられたようですが、この言葉は彼らのサウンドを言い表しているようにも思えます。妙に生活感があるんです。

 ペル・ウブの奇妙な生活感を表しているいるのはデヴィッド・トーマスの佇まいです。ぽっちゃりした体形で、くぐもったような、ふらふらするいちびり声で歌います。このボーカルにはまてしまうともういけません。

 特にタイトル曲はうねるようなリズムとオーボエみたいなサックスや、きらりんきらりんとなるギターと、そのボーカルが相俟ってとにかく素晴らしいです。ちょうど内臓で反応するというのでしょうか、お腹がぐりんぐりんするほど気持ちがよいです。

 全体にデビュー・アルバムに比べて、サウンドがきらびやかになっています。そのため、前作にあったガレージ感は後退しています。やはりペル・ウブにパンクは似合いません。もっと老成した感じが色濃く漂ってきました。

 曲はますます変なアンサンブルになってきています。ひっくり返るボーカルが素晴らしい「カリガリ博士の鏡」だとか、確かに映画の効果音のような「スリラー」、勇壮に突っ走る「オン・ザ・サーフェス」、夏の夜のビーチをパロったような「ウブ・ダンス・パーティー」。

 そして最後は♪ぼくはきみのことをいつでも考えている♪というロマンティックにもなりうる歌詞を、ぬぼーっと気味悪く歌って終わります。アルバム全体を通して、単調な退屈極まりないダブ・ハウジングの日常をペル・ウブなりに映し出していることが分かる終曲です。

 もちろんロックに分類される音楽に違いないのですけれども、アメリカの地方都市の民族音楽であるかのように、日本にいる私とはまるで通じ合うものがない音楽です。そこがいいです。下手に分かり合えない。その分からなさ加減が絶妙です。

Rewritten on 2017/8/19

Dub Housing / Pere Ubu (1978 Chrysalis)