あれも聴きたいこれも聴きたい-Zappa01
 私はこれまでいろんな音楽を聴いてきましたが、一番好きなアーティストはだれかと問われれば、迷うことなくフランク・ザッパと答えます。彼の音楽はとても純粋です。音楽以外の夾雑物は何もない。感傷的でもなく、押しつけがましくもない。すべてを忘れて昇天できます。

 フランク・ザッパは1940年12月21日に合衆国のメリーランド州ボルティモアで生まれました。その後、カリフォルニアで育った彼は17歳くらいから地元でバンド活動を開始します。そして、1966年にマザーズ・オブ・インヴェンションを率いてレコード・デビューを果たします。

 それがこの「フリーク・アウト!」です。ホッピー神山氏はザッパが後に発表する夥しい作品に現れる要素はすべてここにあると指摘しました。作家、稲垣足穂は生涯を処女作「一千一秒物語」の解釈に費やしたと言われていますが、そんな話を思い出させます。

 それも一理ですが、この作品は二枚目以降とは明らかに録音が違います。時代の境目がそこにあるような感覚です。二枚目以降がクリアな音なのに対して、こちらはくぐもったような音ですし、リズム・セクションやギターの音も随分と異なります。機材の問題が大きいでしょう。

 プロデューサーはトム・ウィルソンです。彼は、ボブ・ディランやヴェルヴェット・アンダーグラウンドも手掛けていた時代を先取りする眼を持っていた人です。ジャケットに残る彼の言葉は「STRAIGHT AHEAD!」。商業性皆無のバンドに、この言葉。素晴らしい人です。

 アルバム中の楽曲は、R&Bやドゥー・ワップ、ロック、サウンド・コラージュと実に多彩です。「トラブル・エヴリデイ」など、後にライブでおなじみになる名曲も多いですし、「エニー・ウェイ・ザ・ウィンド・ブロウズ」など流れるようなメロディー・ラインを持った美しい曲もあります。

 いきなり二枚組となっていますが、最後のD面は「ヘルプ・アイム・ア・ロック」に始まる何でもありの前衛的なサウンドです。しかし、そんな曲でも構造がとても美しいです。アルバム全体に歌詞や歌はとても猥雑なのですが、それもひっくるめて、とにかく美しい。

 ロック界初のコンセプト・アルバムとも言われ、ビートルズの「サージェント・ペパーズ」に影響を与えたと言われていますが、その辺はよく分かりません。全体に統一感はありますが、何か明確なコンセプトがあったように思えません。なんたってデビュー盤ですから。

 そんなことより、ぐちゃぐちゃな曲「フー・アー・ザ・ブレイン・ポリス」はパンタのバンド、頭脳警察の名付け親だという話にぐっときます。その曲を始め、一曲一曲のインパクトが大きいので、あまり大きなコンセプトに思い至らないともいえます。汲めども尽きぬ魅力の塊です。

 商業的には成功しませんでしたが、多くの人の注目を集めたことは確かです。日本でも中村とうよう氏や植草甚一先生が絶賛しています。植草先生は音楽を絶賛しながら、ザッパのことを「グロテスクな容貌」だとしつこいくらいに書いていらっしゃって笑えます。

 後に展開される目くるめく展開を思う時、常に出発点として参照される作品です。それがデビュー・アルバムというものだと言われればそれまでですが、ここで繰り広げられている猥雑な万華鏡サウンドはやはり過去も未来も凝縮しているかのようです。

Freak Out! / The Mothers of Invention (1966 Verve) #001

*2011年3月21日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Hungry Freaks, Daddy
02. I Ain't Got No Heart
03. Who Are The Brain Police
04. Go Cry On Somebody Else's Shoulder
05. Motherly Love
06. How Could I Be Such A Fool
07. Wowie Zowie
08. You Didn't Try To Call Me
09. Any Way The Wind Blows
10. I'm Not Satisfied
11. You're Probably Wondering Why I'm Here
12. Trouble Every Day
13. Help, I'm A Rock
14. It Can't Happen Here
15. The Return Of The Son Of Monster Magnet

Personnel:
Frank Zappa : vocal, guitar
Ray Collins : lead vocalist, harmonica, tambourine, finger cymbals, bobby pin & tweezers
Jim Black : drums (also sings in some foreign language)
Roy Estrada : bass & guitarron, boy soprano
Elliot Ingber : alternate lead & rhythm guitar with clear white light