あれも聴きたいこれも聴きたい-RoughTrade
 ラフ・トレードは、英国の自主レーベルの代表選手です。1976年にジェフ・トラヴィスによってロンドンに開店したレコード屋さんが母体となって誕生し、パンク/ニュー・ウェイブの流れに乗って瞬く間に世界に羽ばたきました。

 私もロンドンに行った際にはいそいそとお店を覗きに行って、感慨にふけったものです。ニュー・ウェイブ好きが巡礼に訪れる聖地の一つと言っていいでしょう。ビートルズのアビー・ロードのようなものです。

 日本でも英国の動きに呼応してメジャー・レーベルの一つ徳間音工がジャパン・レコードなるパンク/ニュー・ウェイブを扱うレーベルを誕生させました。ラフ・トレード作品は、その徳間ジャパンが日本でも正式に発売することで、一気に身近なものになりました。

 ラフ・トレードの名前をメジャー級にしたのは、何と言ってもザ・スミスです。財政的には彼らが支えていたと言っても過言ではなく、実際、ザ・スミス解散後は財務面で立ち往生することとなり、1991年には破産してしまいます。パンクです。

 ヴァージンにはマイク・オールドフィールド、ラフ・トレードにはザ・スミス。しかし、その後の商才ではトラヴィスはリチャード・ブランソンに遠く及びませんでした。ただし、その結果、ジェフ・トラヴィスは音楽業界でもまだ人望があります。難しいものです。

 この作品は確か日本独自企画だったはずです。まだCDが駆け出しの頃に徳間ジャパンが「日本で紹介して4年を迎えるラフ・トレードの歩み」を「集大成する意味をこめてCD用にコンピレーション化したものがこの作品です。」

 収録されているのはロバート・ワイアット、キャバレー・ヴォルテール、ディス・ヒート、ドーム、ウィークエンド、ヴァージン・プリューンズ、ザ・ポップ・グループ、ワイヤー、レインコーツ、ザ・スミスの10組12曲です。ワイアットとウィークエンドは2曲ずつです。

 コンピのテーマは「私たちの地球が悲鳴をあげている」「世紀末の不安感」です。ジャケットにあるように「聖母マリアが血の涙を流さなければならないまでに至った真実の意味」を探る試みであるようです。

 ネオアコという言葉は相応しくありませんけれども、ザ・ポップ・グループにしてもヴァージン・プリューンズにしても比較的渋い曲が選ばれており、全体を黄昏の世紀末感が覆っています。題名通りのレクイエムです。80年代の若者気分が全開です。

 ほとんどの楽曲はコンピしてくれなくても持っているのですが、レインコーツの名曲「ドリーミング・イン・ザ・パスト」は収録アルバムのCD再発時に削除されていましたから嬉しいです。男性であるリチャード・ドゥダンスキーの曲だから削除とは理不尽な理由でした。

 この曲は最もレクイエムに相応しい本当に素晴らしい曲です。愛する人を失った後のやけに静かな日々。思い出は残り、人々は過去を夢にみる。レインコーツの歌は深く深く心にしみわたります。世紀末は過ぎていきましたが、血の涙はまだまだ続きます。

Edited on 2017/8/12

Requiem by Rough Trade (1984 徳間ジャパン)