あれも聴きたいこれも聴きたい-ManuKatche
 ジャズは北欧、やうやう白くなりゆく山際、なんていう軽口も出ようというものです。私は北欧系のジャズが大好きなんです。マヌ・カッチェは象牙海岸に出自をもつフランス人ですけれども、ノルウェーの大御所ヤン・ガルバレクと行動を共にしてきた人です。

 ECMレーベルから発表されたこのアルバムいおいても、カルテットのフロントマンとなるサックスのトーレ・ブリュンボルグがノルウェーのアーティストです。そもそもECMは北欧ジャズを随分世に出してきたレーベルですし。

 こうして北欧系ジャズを期待していた私ですけれども、実際に聴いてみるとむしろ南仏で録音されたという話の方がしっくりきてしまいました。象牙海岸対スカンジナビア半島は象牙海岸に軍配が上がったようです。

 サウンドに耳を傾けていると、ジャケットにある通り、夜のとばりが降りてはいるのですが、その闇には昼間の太陽の残滓のようなものが感じられます。明るい白夜ではなく、漆黒の闇の夜の中に日光の匂いがする。そんな素敵な音です。

 マヌ・カッチェは必ずスティングやピーター・ガブリエルとの共演で話題となったと紹介される人です。確かにマヌはロック系の人との仕事が多い。しかし、このアルバムでリーダー作も三作目になりました。ジャズ・フィールドでもきちんと活動している人なんです。

 このアルバムはドラムス、ベース、ピアノ、サックスのカルテットが基本構成です。サックスは先ほど申し上げた通り、ノルウェーののトーレ・ブリュンボルグ。北欧系には似合わない野太い音でブローする人です。ただし、決して大味ではありません。

 ピアノのジェイソン・リベイロはイギリス人で、マヌとはスティングのバンドで同僚だったそうです。硬質のクリスタルな音が持ち味でしょうか。ベースのピノ・パラディーノもロック~ソウル畑の仕事が多い人です。

 全曲、静かで穏やかな曲調で、ほっこりします。恐らくは原理主義者が一人もいない。録音時にエゴがぶつかりあったりはしていないでしょう。俺が、俺がと主張する人は一人もおらず、全員で気持よく演奏しています。いい人ばかり集まったなあとしみじみしてしまいます。

 ECMの一部のアルバムは叙情に流れ過ぎてしんどいと感じることもあるのですが、このアルバムはちゃんと踏みとどまっています。あまり目立たないんですが、マヌ・カッチェの叩くきびきびしたドラムが全体を引き締めているのだろうと思います。

 1曲だけ、アメリカ人女性シンガー、カミ・ライルが歌っています。「オーガニックな声」と言われているように、生々しくてふらふらゆれるしゃがれ気味の声は見事にはまっています。カッチェのブラシングとベスト・マッチです。

 コンテンポラリーなジャズの世界にあって、こういう落ち着いた雰囲気はとても貴重なものです。落ち着いていながらも老成はしていません。ロックやワールド・ミュージックを経てきた人だけに、若々しいアイデアが溢れています。

Edited on 2017/8/7

Third Round / Manu Katché (2010)