あれも聴きたいこれも聴きたい-Ramones3
 私のラモーンズ初体験は「シーナはパンク・ロッカー」でした。私の高校時代にはまだMTVはありませんでしたが、近畿放送(今のテレビ京都)ではポップス・イン・ピクチャー、通称PIPという洋楽のビデオを流す番組がありました。

 PIPでは洋楽雑誌に先駆けてパンクを積極的に紹介していました。そこで何の知識もない私の目の前に、いきなりラモーンズ、セックス・ピストルズ、ランナウェイズ、ストラングラーズなどが登場したわけです。

 その時のラモーンズのことはよく覚えています。とてつもなくクールでした。メンバーは全員このジャケットそのままの姿です。スタンドマイクを倒しながら歌うジョーイは表情がうかがえませんでした。そんなところもしびれるほどかっこよかったです。

 このアルバムは前作よりもさらに綺麗に録音されています。ただ、曲は前からレパートリーに入っていたものばかりだそうで、これまでの3枚は一体としてとらえてもいいと思います。進歩したのはレコーディング技術のみなのでしょう。カッコいいラモーンズの姿はそのままです。

 「シーナはパンク・ロッカー」はラモーンズを超メジャーに押し上げるポテンシャルを持った曲でした。サーフ・バブルガム・パンクとでも言えばいいのでしょうか、名曲です。しかし、この頃、セックス・ピストルズを初めとする英国パンク勢がアメリカに押し寄せてきました。

 間が悪いことに、ジョーイが喉を火傷して休んでしまいます。こうしてラモーンズの商業的な成功は果たされないままになってしまいました。アメリカでパンクが主流となるのはグランジ以降となりますから、ラモーンズは早すぎたバンドだったのかもしれません。

 実際、最初のマネージャー、ダニー・フィールズは「彼らにビッグ・ヒットが一つでもあれば、アルバムを200万枚売っていたことだろう。『シーナ~』にはそれが出来たはずなんだ。」と語っています。トップ100には入りましたが残念なことです。

 しかし、ラモーンズのトリビュートに参加した面々を見れば分かる通り、ラモーンズの音楽は世界中の若者の脳裏に深く刻み込まれたのでした。ロックをエリート主義から救い、本来の生命を取り戻すことに成功したのはラモーンズだったんです。

 この作品には他にも「ロッカウェイ・ビーチ」や「アイ・ドント・ケアー」など、ロック史に残る曲が多くて、一気に聴いてしまいます。彼らは「アイ・ドント・ウォナ ~」で始まる曲ばかり書いていましたが、全部まとめて「アイ・ドント・ケアー」です。恐ろしいまでの知性を感じます。

 彼らはこの後も頑固にこのスタイルを貫きとおし、やがてカルト・バンドの域を脱して大きな評価を獲得していくことになります。彼らの音楽を評して「ニューヨークの伝統芸能」と評したのは元ゼルダの小嶋さちほさんでした。私はこの言葉をいたく気にいっています。

 ラモーンズの音楽は不思議なことに古びることがありません。ロックの原点を知的に昇華した音楽はいつまでも色褪せることがありません。ライブのみならずレコードですらこのインパクトがあるのはさすがにパンクの元祖だけのことはあります。素晴らしいです。

Edit 2015/12/30

Rocket to Russia / Ramones (1977)