あれも聴きたいこれも聴きたい-Clemontine
 私は漫画好きということでは人後に落ちないつもりです。週刊漫画誌はずいぶんと小さい頃から読んでいましたし、ガロ系の漫画にも親しみました。TVアニメだって一通り熱心に見てきたつもりです。

 ただ、アニメ・ファンというのとはちょっとニュアンスが違います。松本零士は大好きですが、熱中したのは「男おいどん」まで、要するに「銀河鉄道999」だとか「宇宙戦艦ヤマト」の前までです。ガンダムやジブリよりも前、むしろアニメというならディズニー世代です。

 ひところ懐かしのアニメを特集したテレビ番組が人気でした。ナンシー関に言わせれば「懐かしがり飽きた」ほどでした。アニソンも柱の一つで、佐々木功や影山ヒロノブやら、実際にアニメが放映されていた頃には見たことがなかった人たちが画面を賑わしていました。

 さすがにひところの勢いがなくなりましたが、アニソン・ブームは去ったというよりも、ユーチューブなどを介して深く定着したと言ってよいでしょう。カラオケでも幅広い世代に訴えかけるにはアニソンが手っ取り早いとして人気ですし。

 アニソンは、番組を見ていれば、自然に何度も何度も繰り返し聴くことになります。それに番組に強烈に密着しているので、オリジナルのイメージが強烈です。普通の音楽とは脳の違う部位で聴いているようです。ですから、他人がカバーしても、たいてい面白くありません。

 しかし、この作品は面白いと思いました。意表をついて、アニソンのカバーに挑んだのはフランスのジャズ系アーティストであるクレモンティーヌです。彼女は幼少の頃、中南米に住んでいたこともあるそうで、ボサノバは血肉になっている人です。

 収められた楽曲は、天才バカボン、サザエさん、ドラえもん、キテレツ大百科、うる星やつら、一休さんなど、超スタンダードばかりです。それぞれの作品が強烈に印象に残っているものばかりですから、オリジナルを集めたとしたら随分居心地が悪いはずです。

 ところが、ここではフランス語や英語で歌われていますから、オリジナルを思い出し過ぎることがありません。それに、全編ボサノバにアレンジしてあるので統一感があります。ボサノバのおしゃれな心地よさが漂っています。

 そこに、そこはかとなく思い出されるアニソンの懐かしさが心地よい安心感を添える効果を醸し出しています。オリジナルを聴くよりも懐かしさが倍増するようなのは面白いことです。間接照明の効果でしょう。

 クレモンティーヌが「ぼん、ぼん、ばかぼん、ばかぼんぼん」とか「いーっきゅうさーん」とか「さざーえさん」と時折交る日本語を色っぽく歌うところも、白人コンプレックスを払拭できない中年日本人的男性としてどこか嬉しい。

 私は、「カフェなんとか」とか「ヒーリング系コンピ」とか普段あまり縁がありません。しかし、名曲「はじめてのチュウ」など選曲も冴えた、この作品はとても納得できました。続編が出ると聞いては予約せずにはいられませんでした。

(Edit : 2015/11/8)

Animentine / Clémentine (2010)