あれも聴きたいこれも聴きたい-Ramones
 ベルリンの壁の崩壊や中東のジャスミン革命など、世の中にはさしたる出来事もないのに突然大きな変化が訪れることがあります。激動の中東から戻ってきた知人は、中東の人々が「お上に意見を言ってもいいんだ」ということに気付いてしまった結果だと言います。

 森村泰昌風に言えば、目の前に立ちはだかっていた高い壁が、実は大きな置き物に過ぎなくて、横に少し動いたら後ろに回り込めてしまったようなものだといえます。発想が変わることで世の中が180度変わってしまう。政府など簡単に転覆してしまいます。

 突然、視界がパーっと開ける経験は誰にでもあるものですが、それが一斉に起こる。爽快感は大きなエネルギーを産み、世の中を大きく変える原動力になります。気分は呵々大笑、「なーんだ。あははは」と高らかな笑い声が聞こえて来そうです。

 ラモーンズが初めて英国のテレビに出演した時には全国に衝撃が走ったそうです。私の友人でもあるオールタナティブTVのマーク・ペリーはあまりの衝撃に後先を考えることなくぽーんと銀行員生活を辞めたと語ってくれました。

 「イエスの『海洋地形学の物語』がチャートのトップを走っていた時期に、テレビをつけると、ラモーンズが『ガバガバヘイ』と歌っていた。背筋が震えるほど知的に見えた」と当時のことを英国人が綴っていました。時代考証に難はありますが、気分はよく伝わってきます。

 ラモーンズは音楽的エリート主義を取り払いました。この頃、バンドをやっていた友人が「最近の若者は勉強が足りん。ツェッペリンすら聴いていない」と憤慨していましたが、勉強を苦手とする彼が言うほど、ロックもいつしか勉強するものになっていたのでした。

 他人の曲をカバーしようと思ったけれども演奏できなかったから自分たちで曲を書くことにしたラモーンズです。シンプルな曲を下手くそな演奏でひたすら歌いまくる彼らはまことに爽快でした。「なーんだ、これでいいんだ」と思った人は数知れずいたことでしょう。

 このアルバムはラモーンズのデビュー作です。30分弱の時間に14曲を詰め込んだ快作は♪ハイ・ホー・レッツゴー♪という掛け声で始まります。これはベイ・シティ・ローラーズの「サタデイ・ナイト」の掛け声を意識したそうです。彼らはローラーズをライバル視していたんです。

 「知ってることしか書けないから、車と女のことは書けない」とも語る彼らの歌詞も至ってシンプル。「ファースト・アルバムはありのままであることの声明だった。シンプルで、衝撃的で、ユニークであることの」とはメンバーの言。どこまでも自然体です。

 しかし、背景の異なる当時の日本のロック評論界はラモーンズを全く理解できませんでした。「こんなのがはやるなんて英米の音楽界はよほどつまらなかったに違いない」とまで書かれ、ずいぶん馬鹿にされていたものでした。

 ドナ・ゲインズはライナーノーツにて、「彼らが馬鹿でないことに気づくには見識が必要だが、あまりに深刻に受け止めてもずれてしまう」と書いています。なかなかラモーンズを語るのは難しい。そもそもラモーンズの音楽に言葉は要りませんし。そこがまた知的なところです。

Edit 2015/12/30

Ramones / Ramones (1976 Sire)