あれも聴きたいこれも聴きたい-ScissorSisters
 何と言っても「ときめきダンシン」です。こんな邦題の洋楽アルバムを久しぶりに見ました。1970年代や80年代ならともかく、21世紀に入ってからこのような邦題に合うとは思いがけないことでした。なんとも脱力な感じですけれども、なかなかどうしてはまっています。

 彼らの音楽は、70年代、80年代テイストに溢れていると評判で、ビージーズなんかにたとえられることも多く、ボウイやロキシーなどに影響を受けたんだそうですが、私は初めて聴いた時に、スパークスを連想しました。

 シザー・シスターズは2004年に英国で年間ナンバー1に輝いており、アメリカよりもイギリスで受けるところなど、まさにスパークスです。きらきらとした知的で先鋭的なポップで、ジェイクのボーカルも心なしかラッセル・メイルに似ている気もします。私は手放しに礼賛です。

 ただ、いろいろな人の意見を見てみると、30代、40代にお勧めなんて書いてあるところがとても癪に障ります。エルトン・ジョンがピアノを弾いていたり、「ポール・マッカートニー」っていう曲が入っていたりするからかもしれませんが、その二人は団塊のアイドルです。

 彼らは、ニューヨーク出身の5人組で、必ずゲイ・コミュニティー出身であると紹介されます。4人のゲイとそれをたばねる一人の女。しかし、エルトン・ジョンがゲイだとカミング・アウトした後は、かっこいいゲイのお兄さんが歌を歌っていても何の驚きもありません。

 もはやゲイだということは際物を意味しません。ある意味、当たり前の事です。しかし、ゲイの友人に言わせると、そういう理解あるようなことを言われるのが一番嫌なんだそうです。やっぱり屈託があるのでしょう。確かにほんの一昔前は、ゲイの解放は大問題でした。

 かつて、ブロンスキ・ビートに「エイジ・オブ・コンセント」というアルバムがありました。これを「調和の時代」と訳した脳天気な評論家がいましたが、これは同意年齢という意味です。キリスト教国では、同性愛行為は法律で禁止されたり、年齢制限されたりすることが多いのです。

 池波正太郎の「剣客商売」に、ごく普通にお稚児さんが出てくる日本と、思想信条を総動員して反対する西洋とでは文化的背景が全く違います。ただし、今の日本では、戦後平和教育の生み出した道徳が同性愛者をいじめているという厄介な状況にありますが。

 まあそんなことを考えながら、聴くような音楽ではありません。とても楽しいし、うきうきします。年寄りがうきうきしてもしょうがないのですが、ちょっといい気分にさせてくれるという、ポップスの本来あるべき姿、王道を堂々と歩んだ良作であると思います。

 意表をついた哀愁のバラード曲もカッコいいです。ポップしか歌えない声のジェイクですから、バラードもべたつかずにポップに決めています。アナのとる女声ボーカルも超然としていますし、ボーカル・グループとしての魅力も満載です。

 ビートが全編同じようなのは気になりますが、そう、これは踊りながら聴くのが正しいので、そんな文句を言う方が悪い。見ているだけで心浮き立つPVとともに足を動かしながら聴くのが正しい音楽です。

Ta-Dah / Scissor Sisters (2006 Polydor)

(2016/1/7 Edit)