あれも聴きたいこれも聴きたい-Prince7
 プリンスは前作の後、幻のファンク全開アルバム「ブラック・ミュージック」を制作しました。しかし、なぜかお蔵入りになってしまい、ファンの皆様が愕然としていたところに、この「ラヴセクシー」が届けられました。物凄い創作意欲です。仕事が速い。

 ジャケットがまた凄いです。まさかのヌード。よく見かけるポーズで局部を隠した全裸ポーズです。これは典型的な少女漫画を模した少年漫画の絵面です。このジャケットを見た瞬間に私は小林よしのりの「おぼっちゃまくん」を思い出しました。

 この頃のプリンスは注文が多い人でした。そんな殿下のご意向によって、このCDは全一曲です。曲の切れ目がありません。全部通して聴くしかないという恐ろしい仕様になっています。気軽にちょっと聴きたい曲だけ聴くなんてことはできず、不便極まりないです。

 ところが、ちょっと調べてみたところ、今ではちゃんと全9曲の仕様になっているというではありませんか。それはひどい。発売と同時に買った私たちはプリンス殿下に裏切られた思いです。どうせなら最後まで貫いてもらって、殿下のわがままぶりを共有したかった。

 このアルバムはあまり売れませんでした。イギリスでこそ1位に輝きましたが、プリンスにしては久しぶりに全米トップ10を逃しました。シングル曲も「アルファベット・ストリート」こそトップ10入りしましたが、後の2曲は100位にすら入っていません。ちょっと驚きです。

 しかし、音の方は相変わらずアイデア満載で、さすがにプリンス、駄作などでは全然ありません。どすの利いた「アナ・ステシア」や、ポップでファンクな「アルファベット・ストリート」、天国のような「アイ・ウィッシュ・ユー・ヘヴン」など佳曲が並んでいて飽きません。

 ただ、繰り返しになりますが、全部通して聴かないといけないという辛気くささは如何ともしがたいです。CDが売れなかった原因はそこにもあるのではないでしょうか。結構キャッチーな曲が多いですから全部通して聴かなければいけないという必然性はありませんし。

 さて、このアルバムはプリンスに言わせれば、「ゴスペル」だといいます。神と悪魔の対立がテーマになっているそうで、確かに神がかった気合いの入り方です。宗教色の強い「アナ・ステシア」には♪愛は神、神は愛♪という一節が出てきます。これが象徴的です。

 アルバム最後を飾る「ポジティヴィティ」は、ポジティヴであることを全面肯定した曲です。プリンスのようなダークサイドにいると思われていたスーパースターがポジティヴを掲げるわけですから、捻ってねじ込まれたようで、メッセージは強烈に伝わります。

 こうしてメッセージは直截になってきましたけれども、サウンドはより多彩になってきています。ソロ名義ですが、初めて参加ミュージシャンのクレジットもちゃんとあります。骨格だけにそぎ落とされたかのような前作に比べると、分かりやすくなってきました。

 駄作ではないとは言え、そんなところにプリンスの行く末への一抹の不安を抱いたのも事実です。全1曲に痛めつけられた傷は深く、少しプリンスが縁遠くなってしまいました。「アイ・ウィッシュ・ユー・ヘヴン」が大好きなんですが、後半に出てくるんです。悲しい。

Lovesexy / Prince (1988 Paisley Park)

*2011年2月28日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Eye No
02. Alphabet St.
03. Glam Slam
04. Anna Stesia
05. Dance On
06. Lovesexy
07. When 2 R In Love
08. I Wish U Heaven
09. Positivity

Personnel:
Prince
***
Shiela E : drums, percussion, vocal
Dr. Fink : computer keyboard
Cat : vocal
Eric Leeds, Atlanta Bliss : brass, vocal
Miko : guitar, vocal
Boni Boyer : vocal, hammond organ
Levi Seacer Jr. : bass, vocal