あれも聴きたいこれも聴きたい-Prince4
 このアルバムには心底驚きました。世間の皆様も驚かれたことと思います。普通は、「パープル・レイン」のようなコマーシャルなモンスター・アルバムを出した後は柳の下のドジョウを狙うものでしょうが、プリンスは全く違いました。

 前作からわずか1年で、、どんなアーティストでも次のアルバムが難しくなるものですが、プリンスは1年で前作とは全く違うアーティスティックな作品を作り上げ、しかもそれを大ヒットさせてしまいました。なんという才能の持ち主なんでしょう。

 この作品も全米1位となり、シングルカットされた2曲はトップ10ヒットとなっています。とはいえ、モンスター・ヒットとなった前作ほどは当然ながら売れませんでした。聴き手を選ぶ音楽の内容でしたから当然で、むしろここまでヒットしたことに驚くべきです。

 ジャケットを見てわかるとおり、これはサイケデリックなアルバムです。前作で儲けたお金で設立したレーベルはペイズリー・パークといいます。ペイズリーと言えば、サイケデリックの象徴です。なんでこんなミトコンドリア模様がサイケなのか良く知りませんが。

 サイケデリック世代は団塊の世代にあたります。私はその下の隙間世代なので、リアルタイムでサイケデリックを知っているわけではありません。ただ、子供の頃にはまだサイケデリックの残滓がそこここに転がっていました。「ゴジラ対ヘドラ」とか。

 そういうわけですから、サイケデリックとは何なのか感覚的に微かに分かる気がします。そんな私の覚束ない感覚で一抹の不安を残しながらも、ジャケットからロゴからサウンドから貸から、このアルバムは確かにサイケだと断言してみたいと思います。

 サイケとファンクは相性がそれほどよくはないと思います。ここでプリンスは強引に両者を結びつけていますが、やはり「1999」などとは正反対な音です。「パープル・レイン」をはさんで対称的。こちらは、うわ物で勝負という感じ。ピアノやストリングスが大活躍します。

 私は「パープル・レイン」よりもこのアルバムの方をよく聴いたものです。これは何なんだろうと思いながら一生懸命聴いたんです。プリンス印の中でどんどん音楽の地平を拡大していくかのような馬力に引きつけられたのだと言えましょう。

 シングル・ヒットしたのは「ラズベリー・ベレー」と「ポップ・ライフ」の2曲。他には「アメリカ」もシングル・カットされており、さらに英国では「ペイズリー・パーク」もカットされています。そんなわけでそこそこ賑やかですけれども、全体の印象は前作より地味です。

 シングル曲はみんなポップですけれども、私としては「コンディション・オブ・ザ・ハート」をアルバム中の一押しトラックに挙げたいと思います。ピアノを中心にした楽曲構成で、プリンス殿下がうねうねと感情の起伏にまかせて歌う姿は圧巻です。

 もう自分の写真もみんな飽きただろうということで、初めて本人がそのままジャケットに登場していません。そんな話からは前作の大ヒットに対するやや複雑な感情が伺えます。素晴らしいアルバムではありますが、どこか屈折したものを感じます。

Around The World In A Day / Prince And The Revolution (1985 Paisley Park)

*2011年2月22日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Around The World In A Day
02. Paisley Park
03. Condition Of The Heart
04. Raspberry Beret
05. Tamborine
06. America
07. Pop Life
08. The Ladder
09. Temptation

Personnel:
Prince & The Revolution