あれも聴きたいこれも聴きたい-Prince
 日本人にもプリンスに顔つきが似ている方が結構いらっしゃいます。知人にも何人かいるのですが、皆さん総じて自意識に恵まれている気がします。世間との切り結び方に隙がないというか何というか。なかなかにつきあい方が難しい人々でもあるように思います。

 殿下の4枚目は「戦慄の貴公子」というとんでも邦題がつけられました。原題は「コントロヴァーシー」、多様性を排除しようとする世の中に対するプリンスのメッセージになっているのですが、そこは邦題では完全にスルーされました。見た目重視です。

 それもむべなるかな。本作品はジャケットこそ前作に比べて常識的ですけれども、封入されているポスターが凄いです。恐ろしいまでに過剰な自己演出です。裸に黒のビキニパンツ一丁で、腕を頭の後ろにまわして、シャワーを浴びている殿下のお姿が。

 この濃密な世界に同化できるかどうかで殿下を受け入れられるかどうかが決まってしまうと思います。大好きな人は大好きでしょう。しかし、プリンス・ラブの今野雄二さんも最初は殿下のこのようなお姿に引いてしまったそうです。後に虜になってしまうのですが。

 殿下の最初の傑作は前作「ダーティ・マインド」だとの世評です。しかし、より一般的な人気を獲得するのはこのアルバムあたりからです。ここまでの三作品はどことなくアンダーグラウンドな香りがいたしましたが、本作品はメインストリームに近づいてきました。

 私がプリンスを聴きだしたのは「パープル・レイン」からでしたが、このアルバムが音楽雑誌で宣伝されているのは知っていました。日本のレコード会社も遅ればせながら宣伝に力を入れるようになりました。このジャケ写だけでもインパクトがありますから宣伝もやりやすい。

 プリンスは後に誰もが認めるスーパースターになりますが、この頃はまだそうは認知されていませんでした。しかし、自分自身はスーパースターであると認識していたに違いありません。本物のスターは、売れていない時からすでにスター然としているものです。

 アルバムはタイトル曲から始まります。黒だとか白だとか、ストレートだとかゲイだとか、そんなコントロヴァーシーなど要らないだろうと殿下は訴えかけます。まさにプリンスそのもの。シンプルなビートを延々と繰り返すプリンス節に悩ましいファルセットが踊ります。

 どこからどう切ってもプリンス殿下の曲であることが分かります。この路線が突き詰められて後の一連の大ヒット曲につながるわけですから凄いものです。すでに自信に満ちていたプリンスです。後の成功を知ってから聴くとまた格別です。

 プリンスの音楽は、ファンクとロックとソウルを濃き混ぜたもので、そのブレンド具合が凄すぎます。他の人がやると単なる単調なビートがプリンスの手にかかると途端に悩ましくなります。ワン・コードの曲がこんなに豊かなのは素晴らしいことです。

 ちょうどこの頃、イギリスを中心にニュー・ウェイヴのエレクトロ・ポップが流行していました。殿下のこの作品は、ソウルでありファンクでありながら、そのエレクトロ・ポップであるという当時としては妙に感じられた折衷をものにしています。殿下の作品はすべて傑作ですね。

Controversy / Prince (1981 Warner Brothers) 

*2011年2月19日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Controversy 戦慄の貴公子
02. Sexuality
03. Do Me, Baby
04. Private Joy
05. Ronnie, Talk To Russia
06. Let's Work
07. Annie Christian
08. Jack U Off

Personnel:
Prince : vocal, all instruments