あれも聴きたいこれも聴きたい-CocteauTwins2
 コクトー・ツインズのスタイルが完成を見た作品で、彼らの最高傑作の呼び声が高いアルバムです。全ての曲で神話の女性の名前がタイトルになっているなど、コンセプト・アルバム的な色彩すら漂う統一感にあふれたアルバムです。

 ここでは、エリザベス・フレイザーのボーカルが前作に比べるとよりエンジェルになりました。相変わらずエコーの森ではありますが、ボーカルはよりクリアになり、前面に出てきました。ボーカルを主役に組み立てる形。より演劇的になり、ひたすら綺麗に響きます。

 コクトー・ツインズは、このアルバムでは新たにサイモン・レイモンドを加えた三人組になりました。サイモンは、もともと彼らのレーベル4ADのお手伝いをしていたオーストラリア人で、ロビンが自分のデモ・テープを渡した人です。縁が深いです。

 そのサイモンはエンジニアリングやプロデュースに秀でた才能を持った人でした。この作品が前作に比べると格段にプロっぽいサウンドになっているのは偏に彼の加入によるものではないかと思われます。圧倒的にプロの仕事です。

 彼らの来日はもう少し後のことでしたが、中野サンプラザへ勇んで見に出かけたものです。ステージ中央にぽつんと立って歌うエリザベスの姿が強く印象に残っています。ライブでは案外力強いボーカルでした。

 ロビンやサイモンもいたと思うのですが、まるで記憶がありません。それほどエリザベスのボーカルを前面に打ち出したライブでした。もともと彼らのサウンドは分析的に聴くというよりも、全体で一つの音の団子を楽しむものですから、その形がぴったりでした。

 バースデー・パーティーやらレマレマなどといったもっとおどろおどろしいバンドも所属していた4ADのカラーは、このアルバムとディス・モータル・コイルで確立し、以降隆盛を極める耽美派ゴス・ロックの元祖となりました。

 コクトー・ツインズのサウンドの完成とともに今に続く4ADのレーベル・カラーが定まったわけですから、どれほど彼らが重要なバンドであったかが分かります。プロダクションにも相当な気合が入ったことだろうと思います。

 発表当時、私はこのアルバムばかり聴いていた時期がありました。好き嫌いがはっきりするアルバムなので、友人たちの多くにはさっぱりでしたが、熱狂的なファンがいたことも事実です。後に多くのフォロワーを生み出すサウンドというのはそういうものです。

 バンドのスタイルが確立したということは、逆に自らが作り出したスタイルに縛られるということでもあります。彼らはこの後もしばらくは、良質の作品を作り続けるのですが、何となく私には縁遠くなりました。

 もちろん、本作は上り詰めた作品として、圧倒的な完成度を誇っています。コクトー・ツインズのというよりも、ニュー・ウェイブ全体のある側面を代表する名作です。ただ、私には完成されすぎていて、前作の勢いの方が好ましく思えます。

Treasure / Cocteau Twins (1984)

(2015/8/2 Edited)