あれも聴きたいこれも聴きたい-Youssou
 ユッスー・ンドゥールが鮮やかに登場してきたのは1980年代後半のことでした。当時MTVで流れている音楽は多彩な曲調ではありましたが、どれもこれも同じようなリズムばかり。そんなところに現れたワールド・ミュージックはまさに救世主でした。

 ユッスーを始め、サリフ・ケイタなどのアフリカ勢、パキスタンのヌスラット・ファテ・アリ・ハーン、シェブ・ハレドなどのアラブ勢に中南米のカラフルな音楽と、まさに目も綾な世界が突然開けました。私はこれがなければ音楽を聴き続けてはいなかったと思います。

 パリ・ダカール・ラリーで有名なセネガルの首都ダカールは大西洋に突き出た半島に出来た町で人口は300万人と言います。停電が多くて大変だと住人はこぼしていました。ユッスーは1959年にここで生まれています。

 西アフリカにはグリオという歌による伝承者の家系があります。日本風に言うと琵琶法師です。ユッスーはその家系に生まれたのだということです。セネガルの伝統を一身に背負って生まれてきたと言えます。

 その彼が1980年代後半にヨーロッパに進出し、そちらのポップスを吸収して、「ンバラ」と呼ばれる新しいスタイルを確立すると、一気に世界的な歌手として人気を博することとなりました。その後のユッスーはさまざまな大胆な試みに手を染め、一線で活躍しています。

 この作品は、ニューヨークの良心的なレーベル、ノンサッチに移籍してから初めてとなるアルバムです。大半はセネガルで録音されていて、シンプルで穏やかな傑作となりました。バックを固めるのは大半がセネガル人のミュージシャン。とてもアコースティックな作品です。

 アフリカのミュージシャンたちの間では先祖返り的なアコースティック・サウンドが大きな流れになっていた頃です。ヨーロッパ向けかアフリカ向けかでサウンドを分けていたユッスーも、ここではその流れに乗って、双方に向けた一つの作品を作り上げたのでしょう。

 このアルバムでは、フランスの大御所ジョルジュ・ブラッサンスのカバー曲をとり上げたり、現代フランスを代表するシンガー・ソング・ライター、パスカル・オビスポと共演したりしています。一方で、伝統的なセネガル色の濃い楽曲もあって、実に多彩です。

 それにしてもこのリズムはどうでしょう。8ビートとか16ビートじゃなくて、128ビートとか256ビートとかそんな感じ。打楽器や弦楽器の織りなすポリリズムにユッスーのボーカルが別のリズムを付け加えて、さらにさらに複雑なリズムを醸しだすところは圧巻です。ぞくぞくします。

 ユッスーの声は言わずもがな。ソウルを感じる、それはそれはしなやかで力強い声です。世界の最高峰にいる一人には間違いありません。びんびん響く声の魅力は全く失われてはいません。落ち着いた演奏とともに深みを増しているようです。

 仕事でダカールには行ったのですが、なかなか居心地の良い港町でした。一泊しただけではセネガルを知ったことにはならないですけれども、ユッスーの歌声を聴けば、大した国であることはよく分かります。

Nothing's in Vain / Youssou N'Dour (2002 Nonesuch)

 ダカールの朝焼けです。
あれも聴きたいこれも聴きたい-Senegal

(2015/9/12 Edit)