あれも聴きたいこれも聴きたい-DaftPunk
 このアルバムが発表された頃のことですが、在京フランス大使館の参事官と食事をする機会がありました。その際、流れで家族の話になり、フランス関連の話題として、うちの娘がダフト・パンクが大好きでよく聴いていると言うと、参事官は少々驚いていました。

 若い参事官でしたから当然ダフト・パンクのことを知っていましたけれども、人気があるとはいえ、フランスではダフト・パンクはお茶の間の話題にしていいバンドとは思われていない様子でした。アヴァンギャルドとまではいかないにしても体制派ではないということのようです。

 同じ括りに入れてもよいと思われるのが松本零士であり、映画「トロン」ではないでしょうか。ダフト・パンクとの親和性は極めて高いように思います。ダフト・パンクが「トロン」の新作映画「トロン・レガシー」のためにサウンドトラックを制作したのも必然でした。

 オリジナルの映画「トロン」は1982年に制作されています。世界初の全面的なCG映画として名高いカルト映画です。実写と区別できないような現在のCGからすればプリミティブなものですが、逆にその方がCG感が強くてかっこいいのが面白いところです。

 28年ぶりの続編「トロン・レガシー」を監督したジョセフ・コシンスキーはダフト・パンクの二人に初めて会った際、二人が映画にやたらと詳しく、中でも「トロン」をあがめたてまつっていることに驚いたといいます。双方、すっかり意気投合し、このサウンドトラックが決まりました。

 前作「トロン」のサウンドトラックはウェンディ・カーロスが担当しました。カーロスはバッハをシンセサイザーで演奏した「スイッチト・オン・バッハ」を手掛けて大ヒットに結びつけた人です。その後継者としてダフト・パンクに白羽の矢が立ったのは大変分かりやすい話です。

 ダフト・パンクの二人は「トロン」をあがめたてまっつていたわけですから、続編にあたる本作品制作にあたっては、当然のことながら、前作のレガシーを十二分に意識していたことは間違いありません。気分はトリビュートだったのではないでしょうか。

 その結果出来上がった作品は、コシンスキーによれば、「クラシック・オーケストラと電子音楽のミニマリズムをブレンドするという前人未踏の試み」が結実したものになりました。レトロ・フューチャー的なカルト映画にふさわしい前人未踏ではあります。

 新しい試みではありますけれども、出来上がった作品はいかにもサウンドトラック然としています。何回もひねりを加えて結局元に戻ったようなそんな前人未踏を感じます。外形はにているけれども、中身は違うぞという矜持を感じる作品です。

 オーケストラが目立つ作品ですから、ダフト・パンクのパンクなサウンドを期待すると肩透かしをくわされます。しかし、それがダフト・パンクです。チープな魅力も発揮しながら、重厚感あふれるサウンドでまさしくザ・サウンドトラックを作り上げました。かっこいいです。

 この作品は結構なヒットになりました。ヨーロッパではサウンドトラックらしいそこそこのチャート順位でしたが、ダフト・パンクのアルバムとしては初めて全米チャートでトップ10入りしています。映画のために奉仕するダフト・パンクの心意気がヒットの要因かもしれません。

Tron Legacy / Daft Punk (2010 Walt Disney)

*2011年2月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Overture 序章
02. The Grid
03. The Son Of Flynn フリンの息子
04. Recognizer
05. Armory
06. Arena
07. Rinzler
08. The Game Has Changed
09. Outlands
10. Adagio For Tron トロンのためのアダージョ
11. Nocturne
12. End Of Line
13. Derezzed
14. Fall
15. Solar Sailer ソーラー船
16. Rectifier
17. Disc Wars
18. C.L.U.
19. Arrival
20. Flynn Lives
21. Tron Legacy (End Titles)
22. Finale

Personnel:
Thomas Bangalter
Guy-Manuel de Homem-Christo
***
Jeff Bridges