あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed14
 ルー・リードの姿が大きく写っていないジャケットはスタジオ・アルバムではデビュー盤以来のこととなります。あまりぱっとしないデザインのジャケットは、またまた奥さんが手がけたものです。おのろけ路線が継続している新作「レジェンダリー・ハーツ」です。

 RCA復帰第一弾が好評を持って受け入れられたことに気をよくしたのか、その路線を踏襲して、今回もシンプルなバンドを編成して、シンプルなロックン・ロールを追求しています。迷いがないストレートな気持ちのよいアルバムだといえます。多少ややこしい事情はあるようですが。

 ギターのロバート・クインとベースのフェルナンド・ソーンダースは同じですが、ドラムスはマテリアルやスクリッティ・ポリッティで活躍していたフレッド・マーに変りました。この交代は効果てきめんで、リズムは見違えるようにタイトになりました。

 前作は「楽器のオーバーダブなし。ボーカルは全部オーバーダブ」と記されていましたが、今回はそうしたクレジットはありません。しかし、明らかにスタジオ・ライブの音です。さらにはデモ・テープのような全く作りこまれていない音のように聴こえます。そこが前作との違いです。
 
 特にボーカルのライブ感が増しました。声が裸のように生々しいので、今回はボーカルも含めてのスタジオ・ライブ、一発録りではないかとも思われます。ルーはこのバンド編成でツアーも行っていますから、息もぴったりあっていたと理解したいところです。

 しかし、要のギタリスト、ロバート・クイントは険悪な関係だったそうで、制作時にはロバートのギターの音が小さく絞られたという話があります。そう言われてみればギターのバランスも確かに対等ではありませんし、ギターよりもベースが前に出てきています。まるでリード楽器。

 私は気のないような、弦を愛撫しているようなカッティングの曖昧なギターがルー・リードの真骨頂だと思っています。今回は前作以上にその曖昧なギターが大活躍していますから、ロバートの音は本当に絞られているのでしょう。ソーンダースのベースがそこを埋めています。

 本作品では「都会育ち」に見られたB級ロックのポップ感覚は払しょくされており、冷徹なロックン・ローラーとしてのルー・リードのアルバムとなりました。前作ともまた違います。「ブルー・マスク」は詩人としてのルーがオーラを加えていましたが、今回はサウンド中心です。

 とても力強いロック・アルバムで、デモ・テープ的なガレージ感覚もあり、かつ大人のロックンローラーの表情も色濃く漂っており、力の入り具合が伝わってきます。「都会育ち」でのデトックス後、「ブルー・マスク」で始めたサウンドの変化がさらに進化しました。

 しかし、前作の凄味はやや薄れ気味です。ドラムがしっかりしすぎたのか、ベースがかっこよすぎるからか、ルー・リードの場合はサウンドの進化が評価とファンの満足につながらないところがあります。素晴らしいアルバムなのに、印象が今一つ薄いのが残念です。

 ジャケットはバイクのヘルメットで、裏ジャケットにはライダー仕様のルーのポートレート。バイク絡みの曲も二曲含まれていて、ライダーとしてのルー・リードという、バイク好きの私にはたまらない姿です。デザインはぱっとしませんが、これはこれで新しい魅力でした。

Legendary Hearts / Lou Reed (1983 RCA)

*2011年1月27日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Legendary Hearts
02. Don't Talk To Me About Work 仕事の話はやめてくれ
03. Make Up Mind
04. Martial Law
05. The Last Shot
06. Turn Out The Light 明かりを消せ
07. Pow Wow
08. Betrayed 裏切り
09. Bottoming Out
10. Home Of The Brave 勇者の家
11. Rooftop Garden

Personnel:
Lou Reed : guitar, vocal
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Robert Quine : guitar
Fernando Saunders : bass
Fred Maher : drums