あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed12
 紙ジャケ盤のライナー・ノーツでは、立川芳雄さんがもってまわった書き方で、ルー・リードの1980年代初のアルバム「都会育ち」を駄作であるとされています。「アーティストのキャリアのなかに位置づけられて、はじめてその意味が明らかになる」作品だと。

 さらに「ルー・リードという人のパーソナリティを知るうえできわめて重要なアルバムだ」。雑誌のレビューならば「駄作だ」で済むでしょうが、ライナーノーツは曲がりなりにも作品を購入した人が読者ですから「駄作だ」とは書けません。愛にあふれたいい文章だと思います。

 この作品はルーのキャリアのなかでも最も無視された作品ではないでしょうか。私は、この頃のルーのLPは輸入盤の特売コーナーで1000円くらいで投げ売りされていたものを買いました。しかも発売直後です。いかにプロモーションがなされなかったかが分かります。

 天の邪鬼に思われるかもしれませんが、私はこのアルバムのことが結構好きです。ローリー寺西セレクションの素晴らしいコンピレーション、「甘美のロックンロールB級」を愛でるのと同じような心境で本作品を何度も何度も聴いたものです。

 私の一押しであり、本作品を象徴する一曲は、A面最後の曲「スタンディング・オン・セレモニー」です。スピード感がかっこいいです。とりわけアウトロの部分がいいです。ピアノのラインとコーラスのからみがまるでTOTOのような勇ましい楽曲です。

 「パワー・オブ・ポジティブ・ドリンキング」なんていうアルコール礼賛の曲もありますし、直訳すると「どうやって天使に話しかける?」などという可愛らしい曲もあります。極めつけは名バラード「シンク・イット・オーバー」、プロポーズの歌です。歌詞の世界もとても楽しい作品です。

 ルー・リードはその歌声と歌詞の世界が一貫していますから、ともすれば忘れがちになりますが、そのサウンドはパートナーによってころころ変ります。ヴェルヴェッツ時代からそうです。そして、このアルバムの頃までは、ほぼ毎回相手が違います。
 
 この作品の頃はバックバンドが比較的安定していた時期ですけれども、本作品では前回大活躍したドン・チェリーはもちろんいませんし、ついでにサックスのマーティ・フォーゲルもいなくなってしまいました。ベーシックなロック・バンド仕様になったわけです。

 今作品の最大の特徴は全曲をマイケル・フォンファラと共作していることです。マイケルは同じレーベルのタイクーンというバンドのキーボード奏者です。彼はここしばらくルーの相棒としてアルバムに参加していましたが、今回のフィーチャーされ方はこれまでとは比較になりません。

 マイケルのキーボードも縦横無尽に活躍しており、本作品のテイストを決定づけています。そして、その味わい、サウンドの質感がまさにB級ロックンロールのそれです。ポップできらきらしたロックということなのですが、それをルーが歌うというところがいいです。

 キャリアのなかでは異質ですけれども、ロックン・ロール・ハートの持ち主ルー・リードにとってはデトックス作用をもたらす気持ちの良いアルバム制作だったのではないかと思います。裏ジャケットのサザン・ロックのバンドのような集合写真に心が温められます。

Growing Up In Public / Lou Reed (1980 Arista)

*2011年1月25日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. How Do You Speak To An Angel 天使は何処
02. My Old Man
03. Keep Away
04. Growing Up In Public 都会育ち
05. Staning On Ceremony
06. So Alone
07. Love Is Here To Stay そこに愛が…
08. The Power Of Positive Drinking
09. Smiles
10. Think It Over
11. Teach The Gifted Children 天才児

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
Ellard Boles : backing vocal, bass
Stuart Heinrich : backing vocal, guitar
Chuck Hammer : guitar
Michael Fonfara : guitar, keyboard
Michael Suchorsky : drums