あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed10
 ルー・リードの10枚目のアルバムとなる「ストリート・ハッスル」です。前作から本作まで1年4か月しか経っていませんが、この間にロンドンではパンクが負いに盛り上がりをみせ、ルーもパンクのゴッドファーザー的な存在として注目を集めていました。

 その中であえてパンクの対極にある組曲形式で勝負するという心意気をまぶしく感じました。実際には11分程度しかない「ストリート・ハッスル組曲」ですが、記憶の中ではLP片面全部はゆうにある長さに増幅されておりました。それほど印象は強烈でした。

 前作への世間の評価は芳しくなく、商業的にも成功からは程遠かったのに対し、本作品はあまり売れなかったのは同じでも、世評は高いものがありました。とりわけ「ストリート・ハッスル組曲」はさすがにストリート詩人だと高い評価を受けました。

 ルーはこの前年に詩作で「リバティ・マガジン」の賞を受けており、詩人としての評価が一層高まっていた時期です。そこにストリートの現実を歌った一大叙事詩「ストリート・ハッスル組曲」が投下されたわけですから、詩人ルー・リードの底力に世間は感服したのでした。

 歌詞ばかりではありません。評論家の間章氏は「私にはカール・グスタフ・ユングのいう意識と無意識がひとつの人格の中で結合し高めあう<結合の神秘>をさえ思わせる」と本作を評価し、「ルー・リードは誰よりも遠いところへいった」と絶賛しています。

 結合とは、「シスター・レイ」から「メタル・マシーン・ミュージック」によって達したものと、「サンデー・モーニング」「ヘロイン」から「ワイルドサイドを歩け」「サリー・キャント・ダンス」と流れ育ったものがより高いところで「結合」したとの意味です。なるほど。

 さて、この作品の一番の話題はブルース・スプリングスティーンの参加です。「明日なき暴走」が大ヒットした後、活動を休止していたブルースが再始動した頃です。陰陽分かれる二人は、同じストリート詩人としてお互いに一目置く存在だったようです。

 ブルースは「ストリート・ハッスル組曲」の一部で語りを入れています。歌詞の一部に「明日なき暴走」の一節があるということで、ちょうどスタジオで新作の制作中だったブルースに許可どりをしたところ、快諾したのみならずボーカルまで提供したとのこと。いい話です。

 この組曲以外は、もともとライヴで録音されたものに手を加えている模様です。そう思うと、「ギミ・サム・グッド・タイムズ」に名曲「スウィート・ジェイン」が引用されたり、ヴェルヴェッツ時代の曲「リアル・グッド・タイムス・トゥゲザー」が再演されていることも納得できます。

 一方で全体にどうしてもバンド感は薄くなり、サビが印象的なポップな楽曲がならんでまとまりのあるアルバムではあるのですが、私は少し苦手でした。まあよく聴いてはいたんですが。間章氏に入れ込んでいる身としてはやや心苦しい限りです。

 なお、本作品はバイノーラルで録音されたことが話題でした。録音時に聴き手の鼓膜にマイクをセットするという当時最先端のレコーディング法でした。ただ結果は音に気持ち悪い歪みが生じるようで、すぐにすたれてしまいました。ルーも失敗を認めています。

Street Hassle / Lou Reed (1978 Arista)

*2011年1月22日の記事を書き直しました。

参照:「さらに冬へ旅立つために」間章(月曜社) 427p



Tracks:
01. Gimmie Some Good Times
02. Dirt
03. Street Hassle : ストリート・ハッスル組曲
a) Waltzing Matilda
b) Street Hassle
c) Slipaway
04. I Wanna Be Black
05. Real Good Time Together
06. Shooting Star
07. Leave Me Alone
08. Wait

Personnel:
Lou Reed : guitar, bass, piano, vocal
Stuart Heinrich : guitar, backing vocal
Michael Fonfara : piano
Marty Fogle : sax
Steve Friedman : bass
Michael Suchorsky : drums
Aram Schefrin : string arrangement
Jo'Anna Kameron : backing vocal
Angela Howard : backing vocal
Christine Wiltshire : backing vocal
Genya Ravan : backing vocal