あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed09
 明るい歌声で♪アイ・ビリーヴ・イン・ラヴ♪と歌ってしまえるルー・リードはやはり素敵な人です。「ヘロイン」や「毛皮のビーナス」を作った人が、明るいお天道様のもとでなんのてらいもなく♪アイ・ビリーヴ・イン・ラヴ♪。これまでの道のりに思いをいたしてしまいます。

 ルー・リードがとうとうRCAに別れを告げ、アリスタ・レコードに移籍してから初めてとなるアルバム「ロックン・ロール・ハート」です。私にとっては何を隠そうルー・リード初体験となったアルバムです。背徳、倒錯、伝説の人だと思って買っただけに最初は戸惑いました。

 しかし、高校生だった私は一生懸命に聴きました。その結果、ここにある音楽が私のルー・リード観を形成することとなって今に至ります。初版日本盤LPに封入されていた今野雄二さんのライナー・ノーツにも大きく影響されたことも付け加えておきます。

 今野さんは彼独自の言葉使いでもって、これまでのルー・リードの作品群はいわばハイプであって、裸のルー・リードはロックン・ロール魂を持ったシンプルな男であることを説いていました。今野さんは毀誉褒貶の多い人でしたけれども、私は大好きです。

 表題曲「ロックン・ロール・ハート」で、ルーは♪俺はスマートじゃないし、ただの間抜けだと思うけど、心の奥にはロックン・ロール・ハートがあるんだ♪と歌っています。♪メッセージなんて好きじゃないし、そんな奴らはあっち行ってくれ♪。言葉通り受け止めたいです。

 そんなロックン・ロール・ハートにあふれたアルバムですけれども、面白いことにルーの作品の中でも最もジャズっぽかったりします。バックを務める面々が後にエヴリマン・バンドとしてECMからジャズ・アルバムを発表する人たちでもあるからでしょう。

 ドラムのマイケル・スコルスキー、ベースのブルース・ヨウ、サックスのマーティ・フォーゲルの三人です。マーティはこの作品からの参加して大活躍しています。そして後に大きな役割を果たすマイケル・フォンファラがキーボードで新たに参加していることも忘れてはなりません。

 ルーのギターもこのバンドにしっかりと組み込まれていて全体にバンド感が強いアルバムになっています。ツアーやレコーディングを通じて一体感を高めた少人数のバンドはやはりロックン・ロール・ハートをもったルーにはぴったりです。初のセルフ・プロデュースですし。

 ところで、日本盤は面白いことに各楽曲の邦題に徹底的にこだわり、ほぼ全曲に牽強付会気味の邦題がつけられています。「アイ・ビリーヴ・イン・ラヴ」は「愛の存在価値」、「ユー・ウェア・イット・ソー・ウェル」は「センスのいい奴」。歌詞を読んでもいなさそうです。

 閑話休題。本作品は一般にそれほど高く評価されているわけではありませんけれども、曲も粒ぞろいで、捨て曲なしの傑作だと私は思っています。このシンプルなサウンドが癖になります。自然体のルー・リードのへろへろした歌声にはひきつけられます。

 なお、本作品にはゲストとして同じニューヨークのロックン・ローラー、ガーランド・ジェフリーズが招かれ、「センスのいい奴」のバッキング・ボーカルを務めています。二人はルーのヴェルヴェッツ時代以前からの知り合いだそうです。ニューヨークつながり、かっこいいですね。

Rock And Roll Heart / Lou Reed (1976 Arista)

*2011年1月18日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. I Believe In Love 愛の存在価値
02. Banging On My Drum 自己主張
03. Follow The Leader リーダーに続け
04. You Wear It So Well センスのいい奴
05. Ladies Pay 貴婦人の代償
06. Rock And Roll Heart
07. Chooser And The Chosen One 自由選択
08. Senselessly Cruel 無情な仕打ち
09. Claim To Fame 有名病
10. Vicious Circle 悪い仲間
11. A Sheltered Life 陽のあたらない人生
12. Temporary Thing 束の間の行為

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar, piano
***
Michael Fonfara : piano, clavinet, organ, arp
Bruce Yaw : bass
Michael Suchorsky : drums
Marty Fogel : sax
Garland Feffreys : backing vocal