あれも聴きたいこれも聴きたい-LouReed05
 ルー・リードのキャリアの中で唯一全米トップ10入りしたアルバム「死の舞踏」です。面白いことに唯一とも言えるヒット作であるにもかかわらず駄作扱いされています。本人がヒット作品を駄作だと言い切ることはままありますが、衆目一致するところなのが珍しいです。

 これまでのスタジオ作品がヨーロッパ趣味であったのに対し、本作品はすっかりアメリカンなテイストになりました。ブラック・ミュージックの要素が色濃く、ルーにとっては珍しい作品に仕上がっています。ルーの不満はこれがオーバー・プロデュースだというものです。

 赤岩和美さんのライナーによれば、ルーは本作品の曲を書いていますけれども、サウンドはプロデューサーのスティーヴ・カッツに任せきりだったそうです。ボーカルの収録も何とワン・テイクで行ったのだということです。どういう心境だったのか興味のあるところです。

 思えばこれまでルー・リードのソロ作品はプロデューサーの個性が色濃く反映しています。ファーストもどこかルーらしくありませんし、セカンドはデヴィッド・ボウイとミック・ロンソン、「ベルリン」はボブ・エズリンの活躍が目立ちます。ルーは身を委ねているように思われます。

 ライヴの編成までエズリンのアイデアがもとになっているそうです。ルー・リードのパブリック・イメージを勝手に解釈するプロデューサー陣の仕事を少し離れたところから眺めているようなルーの姿勢です。斜に構えているというか何というか。

 さて、本作品ですが、まず「死の舞踏」という邦題がいけません。ヴェルヴェッツ時代のルーのイメージでしょうけれども、アルバムの内容には全く似つかわしくありません。「サリーはダンスを踊れない」と直訳した方がよほど良いです。基本は明るいですからね。

 内容についても好意的なレビューはほとんどありません。ギネス・ポピュラー音楽百科事典でも「方向と目的を見失った」アルバムだと散々な言われようをしています。しかし、そこはそれ、腐っても全米トップ10アルバムです。そんなにひどいアルバムでしょうか。

 赤岩さんはわりと好意的で「ハイプな感覚のソウル/ダンス・ミュージック」だと評しています。ブラッド・スウェット&ティアーズ出身のカッツだけにホーンを多用した黒っぽいフィーリングがあふれる音づくりが何ともこなれていてかっこいいです。

 アルバム・タイトルともなった「サリー・キャント・ダンス」はキッチュなポップですし、「ライド・サリー・ライド」や「キル・ユア・サンズ」など聴きごたえのある曲も多い。メロウであったり、ファンキーであったり、ソウル音楽のテイストが色濃いです。

 ボウイはこの作品の翌年にソウル色の濃い「ヤング・アメリカン」を発表します。お互いに意識しあっていたルーとボウイの間柄を考えると、ボウイが本作品の影響を受けていないとは考えがたいです。両者にとってキャリアの中で特異な地位を占める作品です。

 バックを固めるミュージシャンはまだ流動的ですが、今後長く付き合うことになるマイケル・フォンフォラが入ってきたりして、徐々にルーの音楽が固まっていく兆しが見られます。ただし収録時間がひどく短い。やはり気合は入っていなかったのでしょうか。面白い作品なのに。

Sally Can't Dance / Lou Reed (1974 RCA)

*2011年1月14日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Ride Sally Ride
02. Animal Language
03. Baby Face
04. N.Y. Stars
05. Kill Your Sons
06. Ennui
07. Sally Can't Dance
08. Billy
(bonus)
09. Good Taste
10. Sally Can't Dance (single version)

Personnel:
Lou Reed : vocal, guitar
****
Prakash John : bass, backing vocal
Danny Weis : guitar, tambourine, backing vocal
Michael Fonfara : keyboard
Whitey Glan : drums
Richie Dharma : drums
Doug Yule : bass
Paul Fleisher : sax
Michael Wendroff : backing vocal
Joanne Vent : backing vocal
Steve Katz : harmonica