あれも聴きたいこれも聴きたい-NumberGirl
 私は半世紀に及ぶ習慣を変えられず、大晦日には紅白歌合戦を見ないではすごせません。日本人なら紅白だ、と思っているのですが、家庭教育は行き届かず、子供たちは「ガキつか」を見ると言って聞きません。結局、別々の部屋で過ごすことになりそうです。

 しかし、「ガキつか」は侮れません。2010年「ガキの使いやあらへんで」のスポットCMで流れていた音楽はどこかで聞き覚えがあると思って、随分気になっていましたが、正体が分かりました。このナンバーガールのアルバムからの一曲です。

 この作品はナンバーガールが2002年に発表した通算4枚目にして最後のスタジオ・アルバムです。リーダーの向井秀徳はさっさと別のバンドで活躍していますが、今でもナンバー・ガールが好きだと言う人は多いです。甲本ヒロトとブルー・ハーツの関係のようです。

 ナンバーガールは数々のロック・ミュージシャンを輩出してきた福岡出身のバンドです。私などは明太ロックという言葉が浮かびますが、もう使われない言葉のようです。しかし、福岡のバンドに特徴的な熱苦しさと紙一重の濃さはナンバーガールにも生きています。

 ナンバーガールのサウンドについて、近田春夫は、ギターは昔、不良の楽器だったということを思い出させてくれるギター・サウンドだと評しています。さすがに近田さんはうまい言い方をされます。全くおっしゃる通りで、これ以上の言葉は思い浮かびません。

 ここで聴かれるのは、エロティックで危険な香りのするギターを中心としたオルタナ・ロックです。ロックがロックであった時代を現代に甦らせたような生き生きとした跳ねまわるサウンドは見事の一言です。

 ナンバーガールは、向井と田渕ひさ子の二本のギター、中尾憲太郎のベースとアヒト・イナザワのドラムという四人組です。それでこれだけ分厚いサウンドが展開するのですから凄いものです。ダブ的な音響処理が音のエロスを倍増しています。

 本作品には、プロデューサーには前作に引き続いて、引く手あまたのアメリカのプロデューサー、マーティン・フリッドマンが起用されています。どこまで彼の手腕が発揮されてこのようなサウンドになったのかは分かりませんが、見事な仕事をしたと言えると思います。

 「南無阿弥陀仏」という曲がありますから、アルバム・タイトルは南無妙法蓮華経ではなく、浄土宗の方です。このタイトルが示唆するのは和テイストということで、音頭みたいな曲も出てきます。浄土宗はいかにも日本風仏教ですから、それはそれで面白い発想です。

 実は和テイストはどうかなと思わないではないのですが、リズムはタイトだし、とにかくギターがかっこいいのでまあよしとします。「南無阿弥陀仏」や「性的少女」など佳曲揃いのいいアルバムです。これが最後というのはとても残念です。

 のっぺらぼうのジャケット絵といい、きつねの隈取りのような絵柄のステッカーといい、ブックレットに描かれたヴィジュアルといい、不安をあおる独特の世界です。どこか非常階段などのノイズ系バンドと同じ肌合いを感じます。

Num Heavy Metallic / Number Girl (2002 東芝EMI)

(2015/4/18 Edit)