あれも聴きたいこれも聴きたい-IronButterfly
 アイアン・バタフライの名前の由来を聞かれると、重いものと軽いものを組み合わせたのだと彼らは答えます。それなら後のストーン・ローゼズなんかも同じです。深読みをしようと思えばいくらでもできそうな名前ですけれども、あまり意味はなさそうです。サイケデリックです。

 彼らが活躍した期間は短かったですけれども、デビュー作とこの2作目でロック史上に燦然と名を残しています。ちなみにデビュー作「ヘビー」は、初めて「ヘビー」なる単語を音楽に冠した記念すべき出来事なのでした。

 この2枚目は何が凄いかというと、その売上です。米国の音楽業界がプラチナ・ディスク制度を創設してから最初のプラチナ・ディスクになったんです。しかも、その後も売れ続け、累計なんと3000万枚というモンスター・アルバムです。

 ジャンル分けしますと、これはもうサイケデリック・ロック以外にありません。ジャケットからして見事にサイケデリックですし、アルバム・タイトルも「イン・ザ・ガーデン・オブ・ライフ、エデンの園」のサイケデリック表現です。

 一曲目から俄然サイケデリックとしか表現のしようがない音が流れてきます。そもそも私たちの世代は「これがサイケデリックだ」という教育を受けてきましたので、それ以外の形容が思い浮かばないようになってしまっています。

 ただし、「サイケデリック=インド」という切り口もあり、このアルバムもインドっぽいなどと言われることがありますが、インドを第二の故郷とする私としては、それはないと言いたいです。インドのアメリカ的解釈ということならありかもしれませんが。

 何と言ってもアルバムの白眉はタイトル・トラックです。LP時代はB面全部を使って一曲。サイケなベース・ラインがモチーフになり、オルガンやドラムが長めのソロを入れる構成で、長尺にもかかわらず飽きさせません。

 イントロのリフなどはロック界の定番の一つでしょう。私たちの世代のロック耳を作り上げる基盤の一つとなっていると言っていいと思います。この曲一曲だけでアルバムを買う価値はあります。17分間のトリップは大そう気持ちいいです。

 時代考証があやふやですけれども、ドアーズのレイ・マンザレクのオルガンやクラプトンのクリームなどのサウンドとの共通点を見出すことは容易いです。まさに時代の音だったということでしょう。

 当時のアメリカと言えば、ベトナム戦争真っ最中です。サイケデリック・ムーブメント華やかなりし時代、21世紀の今から振り返っても実感として理解することは難しいです。その一端を窺い知るにはうってつけの教材であると言えます。

 往時のアメリカの空気を一身に体現したサウンドでなければ3000万枚はあり得ません。アイアン・バタフライはイタコのような存在だったのでしょう。そうであれば、彼らがこのアルバムを超えられなかったのも道理です。

In-A-Gadda-Da-Vida / Iron Butterfly (1968 Atco)

(2015/3/1 Rewrite)