あれも聴きたいこれも聴きたい-Olympia
 いきなりの自慢で恐縮ですが、私はケイト・モスを見たことがあります。ロンドンのピカデリーを歩いている時に、すれ違いました。あまりにびっくりして、尻もちをつきそうになった私を見て、ケイトはくすっと笑ってくれました。心が通いあった瞬間だと言ってよいと思います。

 スーパーモデルとしては小柄な彼女ですけれども、実物はすらりと背が高く、オーラ漂うとても美しい方でした。1990年代前半の出来事でした。当時は少女然としていて、彼女のセミヌードがチャイルド・ポルノに厳しい英国で物議を醸したものでした。

 そのケイト・モスをジャケットに起用したブライアン・フェリーの作品がこちらです。今回もマーカス・ミラーとナイル・ロジャースをバンド・メンバーとするなど、豪華なミュージシャンを贅沢に起用したゴージャスな作品になりました。

 ゲストのうち、世代を下ったところでも、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリー、プライマル・スクリームのマニ、レディオヘッドのジョニー・グリーンウッド、歌の共作にシザー・シスターやグループ・アルマダなど、同世代に安住しない姿勢が眩しいです。

 そして同世代からは、クリス・スペディングやピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアなどの定連に加えて、ロキシー・ミュージックの面々が揃いました。アンディ・マッケイ、フィル・マンザネラ、ブライアン・イーノが同じ曲で共演しています。目頭が熱くなります。

 サウンドは一曲目から懐かしいです。名作ソロ「ボーイズ・アンド・ガールズ」の「ドント・ストップ・ザ・ダンス」を意識したことが明らかな「ユー・キャン・ダンス」で幕を明けます。まるで時が止まったかのような感慨に襲われます。

 それもそのはず、サウンドをミックスしているのは、ボブ・クリアマウンテンです。ブライアン・フェリーとロキシー・ミュージックばかりではなく、1980年代のサウンドを作り上げた最大の功労者の一人です。まだまだ元気です。

 この曲に限らず、昔から大ファンの私にはとても耳に心地よいサウンドが全編続きます。しかし、さすがにフェリーさんも歳をとりました。声がややかすれ気味になっていて、昔のねっとりとした濃さが枯れた味わいに変わっています。

 また、一時期のくどいまでの作りこみもありません。細部にまで気配りがされていて、聴けば聴くほど、細かいところに新しい発見があったりしますが、とても自然です。満腹感に襲われて、もういいやとなることがありません。

 タイトルの「オリンピア」は1863年のマネの傑作絵画を指すと同時に、この作品を生んだフェリーさんのアトリエがある西ロンドンの地名を表しています。さらにはギリシャの都市の名前でもありますが、彼にオリンピックは似合いませんから、あくまで「オリンピア」です。 

 しばらくフェリーさんからは遠ざかっていましたが、久しぶりに新作を買って正解でした。アーティストは死なず。大人のロックという言い方はきらいですが、このアルバムは大人が安心して楽しめる極上の贈り物です。ジャケットがすべてを物語っています。

Olympia / Bryan Ferry (2010 Virgin)

(2015/3/15 Edit)