あれも聴きたいこれも聴きたい-松浦亜弥
 このアルバムの最後の曲は「みんなひとり」です。松たか子の歌っている歌ですが、さすがにあややの歌唱は聴かせます。そしてその前の曲が「ひとり」、その前が「オンリー・ワン」、もう一つ前が「ディアレスト」です。

 最近になって気がつきました。全13曲の最後の4曲のタイトルがすべて「ひとり」を指し示しています。この時のあややの心もちを表しているのでしょう。それぞれ内容は違うのですが、「ひとり」なんです。

 この後、病気の告白もありましたし、結婚もありました。10代前半からアイドルとして活躍してきた彼女の人生に思いを馳せて聴いてみると感慨も一入です。アイドルという人生はなかなかに大変なものなのでしょう。

 この作品は、松浦亜弥のセルフ・カバーと新曲からなる作品で、2010年に発表されたものです。2014年になって、スガシカオなどによって再評価され、再び注目を浴びることになりました。発表当時はほとんど話題になりませんでしたから、面白いものです。

 発表当時はファンの間で賛否両論がありました。その違いは、アイドルあややの視点で捉えるのかどうかということだったと思います。私にとっては永遠のアイドルですから、私も辛口の評価をしていました。

 松浦亜弥は歌唱力が高いと皆が一様に言っていましたが、私には何だかそこが落とし穴になっているように思えました。とかく、Jポップでは「歌唱力がある」と言われると、無理にジャズに走ったりして、ミュージック・フェア的になってしまいます。

 このアルバムは冒頭の「ザ・ディファレンス」が、いきなりジャズなんです。これはミュージック・フェアではないかと思いました。今でもそう思いますが、2曲目以降の展開が最近胸にしみるようになってきました。二曲目からは人気の高いバラード曲が並んでいます。

 特に新曲の「横浜ロンド」は素晴らしいと思います。雨模様の空の下でコートの襟をかき上げて、空を見上げるモノクロのあややは素敵です。他の曲もなかなかいい曲が並んでいます。スガシカオや森高千里、竹内まりやの曲のカバーもあります。

 ただ、もう少しいろいろな曲調の歌が入っていてもよかったと思いましたし、ライブでのあややの歌声に比べると線が細いところが気にならないではないのですが、それもこの時の松浦亜弥の心象風景かと思うとだんだん納得してきました。

 再評価機運に迎合するようで嫌なのですが、あややファンとしてはもうアイドルとしての姿を見ることはないと腹を括ったら、すとんと腑に落ちてきました。これからは腹を据えて、あややの脱アイドル路線を応援したいと思います。

 本人も「あやや」が歳をとる姿を見たくないと言っています。自分でも「あやや」を大切にしているんでしょう。アイドル人生に区切りをつけて、みんなの「あやや」から、ひとりの松浦亜弥へと変貌を遂げたあややのアルバムです。

(rewrite 2015/2/15)

Click you, Link me / 松浦亜弥 (2010 Zetima)