あれも聴きたいこれも聴きたい-ミチロウ
 何も自慢するわけではありませんが、私は音楽を聴く時にほとんど歌詞を聴きません。もちろん聴いているわけですが、歌詞を中心に聴いて感情移入するような聴き方はほとんどしません。「とにかく歌詞がじーんと来るんですよね」ということがほとんどないわけです。

 それでは、ポピュラー音楽の半分も楽しめていないではないかと言われると一言もありません。これまで、引け目を感じていましたけれども、坂本教授もそうだとおっしゃいますから、勇気をもって告白してみました。

 そんな私ですが、遠藤ミチロウの歌詞は格別です。彼の言葉の一つ一つが素晴らしい。遠藤みちろうこそ現代日本の誇る詩人であると断言できます。作家としては町田町蔵に先をこされましたが、詩人一筋で頑張るみちろうさんは素敵です。

 このアルバムでも、その歌詞。これはもう大傑作です。全部引用してご紹介したいくらいですけれども、そうもいきませんから、発表後30年を経ていまだに頭にこびりついているフレーズをいくばくか紹介してみたいと思います。

 ♪このままずっと春休み、わきの下だけ夏休み♪、♪人民の人民による人民のためのSEX♪、♪ワタシ アタマ ワルイ アナタ クサイ♪、♪頭隠してお尻でSEX♪、♪SEXは人の上に人をつくらず 女のハラにガキをつくる♪

 この作品は1985年に遠藤ミチロウがスターリンを解散して始めた新プロジェクト、ミチロウ・ゲット・ザ・ヘルプの12インチ・シングル三部作を一枚にまとめたCDです。コンセプトはグロテスク・ニュー・ポップ、GNPです。

 ザ・スターリンはセンセーショナルでしたから、どんどんメディアでも盛り上がっていきました。一種のメディア・ハイプです。その反動で、伝説のファースト・アルバムばかりがもてはやされる傾向もありました。遠藤ミチロウさんには不満がたまっていたことでしょう。

 この作品では、ザ・スターリンの軛が外れて、縦横無尽に冒険がなされています。背骨となっているハードコアな曲作りはスターリンゆずりですが、タンゴだったり、ファンクだったり、グループ・サウンズだったりと、その自由度は高いです。

 歌詞もザ・スターリンのイメージからは自由になっていますから、その威力も倍増しています。宮澤賢治の詩からタイトルをとった「アメユジュトテチテケンジャ」だとか、冒頭とラストを飾る対の作品「オデッセイ・1985・SEX」などは凄まじいです。

 アルバムにはミュージシャンのクレジットは一切ありませんが、ザ・スターリンやルースターズのメンバーに加えて、元四人囃子の岡井大二、ユニコーンの生みの親、笹路正徳なども参加しています。ミュージシャンに人気の高いミチロウさんならではです。

 ビジュアルも鳥の被り物など恐ろしいまでの凝りようです。元祖ビジュアル系と言われることもあるザ・スターリンを率いたミチロウのサイケデリックないしはゴシックへの嗜好もほの見えます。このプロジェクトの活動記録がこれだけというのは大変惜しいことです。

Odyssey 1985 Sex / ミチロウ・ゲット・ザ・ヘルプ (1985 キング)

(2015/3/29 Edit)