あれも聴きたいこれも聴きたい-Funkadelic
 ジョージ・クリントンは15歳にして米国ニュージャージー州でドゥーワップ・グループ「ザ・パーラメンツ」を結成しています。1956年のことです。当初から本気だったクリントンは、早くも1958年にはシングル盤をリリースするに至ります。天性のビジネスマンです。

 よく知られるようにクリントンは床屋でも働いていて、秀でた縮毛矯正技術で町でも評判だったそうです。Pファンクに連なる連中の多くはジョージの床屋に出入りしていたことから、Pファンクは床屋から生まれたという素敵なエピソードに繋がっていきます。

 このアルバムはもともとはザ・パーラメンツのバック・バンドだったファンカデリックによるセルフ・タイトルのデビュー・アルバムです。ザ・パーラメンツは最初のレコードは早かったものの、その後、紆余曲折があって、結局ファンカデリックの方が先にアルバムを発表しました。

 ザ・パーラメンツ結成からここまで13年も経過しています。その間、ヒット曲も出ていますが、アルバム発売にまで至らず、さらにはレーベルとの契約のもつれで、パーラメンツ名義が使えなくなってしまい、便宜上ファンカデリックの名前で発売した作品だと言われています。

 しかし、面白いもので、方便だったはずなのに、これはパーラメントではなくて、ファンカデリックの作品になっています。パーラメントの中心となるボーカル陣は脇役なんです。この少し後にパーラメントのファースト・アルバムが発売されていて、そちらはボーカルが主役。

 名前の威力と言うのは恐ろしいものです。ベースのビリー・ネルソンがいつまでもパーラメンツのバック・バンド扱いされることに嫌気がさし、名前を付けることでアイデンティティーの確立を図ったということです。唯名論ではありませんが、名無しは存在しないも同義ですから。

 モータウンのファンク・ブラザーズのファンクとサイケデリックをくっつけた名前で、見事に彼らの音楽を表しているところがまた凄いです。もしも、ここで「殿様キングス」と名付けていたとしたら、彼らは演歌ファンクをやっていたのかも知れません。それも見てみたいですが。

 この後、ご存じのとおり、クリントンはパーラメントとファンカデリックを使い分けて、どちらも大成功します。その使い分けアイデアはこのデビュー時の偶然から来たのでしょうが、おかげで世界が豊かになったわけですから、偶然に感謝しなければなりません。

 サウンドは、まさに黒いサイケデリック・ロックです。この頃のファンカデリックは、ファンクとサイケデリックを融合させた名前のうち、サイケデリックが勝っています。1970年代後半の全盛期もいいですけれども、これはこれで爆発を予感させる凄みのあるアルバムです。

 ドラムのティキ・フルウッドとベースのビリー・ネルソンのリズム隊が叩くファンキーなリズムに、エディー・ヘイゼルのサイケなギターが響き渡る凄味のあるサイケデリック・ファンクです。重い重いリズムとサイケデリックの出会いにははらわたがねじくれる快感があります。

 制作中にはメンバーが辞めたり戻ったりとごたごたしたようですし、クレジットはありませんが、パーラメントのボーカル陣が中心になった曲もあったり、いかにもごちゃごちゃしていますが、そんなところもPファンクらしくて素敵です。産声からして素晴らしい。

Funkadelic / Funcadelic (1969 Westbound)

参照:「P-Funk」河内依子(河出書房新社)

*2010年12月7日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Mommy, What's A Funkadelic?
02. I Bet You
03. Music For My Mother
04. I Got A Thing, You Got A Thing, Everybody's Got A Thing
05. Good Old Music
06. Qualify And Satisfy
07. What Is Soul
(Bonus Track)
08. Can't Shake It Loose
09. I Bet You
10. Music For My Mother (single version)
11. As Good As I Can Feel
12. Open Our Eyes
13. Qualify And Satisfy
14. Music For My Mother (instrumental version)

Personnel:
Eddy Hazel : guitar, vocal
Billy Nelson : bass, vocal
Tawl Ross : guitar
Tiki Fulwood : drums, vocal
Mickey Atkins : organ