あれも聴きたいこれも聴きたい-Kiss
 天地茂主演のTVドラマ「非情のライセンス」は還暦世代の脳裏に深く刻み込まれた名作です。いわゆる刑事物で、天地茂の暑苦しいけれどもクールな演技に震えたものです。この名作のオリジナリティの一つは各回のサブタイトルに必ず「兇悪」の文字が入ることでした。

 初期の頃は「兇悪の銃弾」とか「兇悪の街角」などと普通の兇悪タイトルでしたけれども、次第にスタッフのノリが怪しくなり、「兇悪のお母さん」などというサブタイトルが入るようになりました。そして、「ああ兇悪」、「さよなら兇悪」などなど...。

 キッスの初期のアルバムの邦題には必ず「地獄」が入っていましたので、こんなネタを思い出した次第です。残念ながら、この「ダブル・プラチナム」には地獄は入っていません。前作の「ラヴ・ガン」で伝統は途切れてしまいました。残念なことです。

 「ダブル・プラチナム」は初期キッスのベスト・ヒット盤です。勝手にミックスされたということで、メンバーの評判はかなり悪いです。彼らのアルバムの中でもう一つ評判が悪いのが「魔界大決戦」というアルバムです。私はその二枚がとりわけ好きなので肩身が狭いです。

 キッスの1970年代の活躍は凄かった。当時はまだ、「テレビでキッスのステージを見たお年寄りがショック死した」という都市伝説が有効な時代でした。実際のところは知りませんが、私の友人のおばあちゃんが「これは絶対人間ではない」と断言したのは確かな事実です。

 キッスは、日本ではエアロスミス、クイーンと並ぶ御三家として大人気でした。そして、当時の高校生ロック・バンドの9割はキッスをレパートリーに入れていたはずです。ロックの教科書としてはレッド・ツェッペリンなどではなく、キッスが断トツだったわけです。

 実際、今聴いてみても、これは一般の人が「ロック」と聴いて思い浮かべるイメージの最大公約数になっていると思います。どこをどう切っても「ロック」、実に教科書的です。帯にある「全曲がロック・クラシック!」という言葉はだてではありません。

 特に「ロックン・ロール・オール・ナイト」と「デトロイト・ロック・シティー」は凄いです。40年を経過した今でも誰もが知っているといってよい名曲です。これが「ロック」だと言っておいて間違いありません。何と言ってもヘヴィ・メタル版ビートルズですから。

 しかし、当時はやはり際物感がありました。レコード会社もこの人気が続くうちに出来るだけ稼いでおこうという魂胆が見え見えです。ライブ・アルバムも2枚出ていましたし、初期6作を3作ずつセットにした「地獄の全貌」も出ていました。そこにこのベスト盤です。

 ギンギラギンのジャケットに包まれて、お馴染みの曲が堪能できるとあって、まるでファンでなかった私も、とりあえず買っておくかと思いました。2枚組にしては安かった。そこはキッスはとても良心的でした。ターゲットが明確であるということでもありますが。

 まさか彼らがその後こんなに長生きするとは当時誰も思っていなかったんじゃないでしょうか。しかし、キッスのハードでポップでストレートで小気味よくてとにかく楽しいロックは不滅でした。すがすがしくエンターテインメントに徹した姿勢は立派の一言です。

Double Platinum / Kiss (1978 Casablanca)

*2010年12月5日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. Strutter '78
02. Do You Love Me
03. Hard Luck Woman
04. Calling Dr. Love 悪魔のドクター・ラヴ
05. Let Me Go, Rock 'N' Roll
06. Love Gun
07. God Of Thunder 雷神
08. Firehouse
09. Hotter Than Hell
10. I Want You いかすぜあの娘
11. Deuce
12. 100,000 Years 10万年の彼方
13. Detroit Rock City
14. She 彼女
15. Rock And Roll All Nite
16. Beth
17. Makin' Love 果てしなきロック・ファイアー
18. C'Mon And Love Me 激しい愛を
19. Cold Gin
20. Black Diamond

Personnel:
Paul Stanley : guitar, vocal
Gene Simmons : bass, vocal
Ace Frehley : guitar, chorus
Peter Criss : drums, vocal