トーフィク・クレーシーは、インドの打楽器タブラの神様と言われる故ウスタード・アララカの末息にして、現代タブラの最高峰ザキール・フセインの弟にあたります。パーカッション界の超サラブレッドです。ちなみに奥さんのギーティカ・ヴェルデも本作品で歌っています。

 この兄弟はどちらもインドばかりではなく、世界中のミュージシャンと共演していますが、その在り様が随分違います。ザキールがインド音楽の世界をどんどん掘り下げていって、普遍にたどりついた観があるのに対して、トーフィクは、そのまま横に広がったかのようです。

 というのも、トーフィクはインド古典を学びながらも、世界中のパーカッションへの興味を募らせ、さらにロックやジャズにも強い影響を受けた人で、父や兄の助言も受けて、タブラの道を止めて、パーカッションに専念した人なんです。異色の経歴だといえます。

 この作品は、そんなリズムの冒険者トーフィク・クレーシーがインド初のワールド・ミュージック専門レーベル、フリー・スピリッツから発表した作品です。「リズム・オデッセイ」と副題がついていますから、2001年かと思いましたが、残念ながら2000年の作品です。

 トーフィクは、このアルバムで父アララカや兄ザキールを初め、ボリウッドの有名シンガー、シャンカル・マハデヴァンなど多彩なミュージシャンと共演しています。また、トーフィクが叩く心躍る打楽器群は、インドのものばかりではなく、世界中から集められたものです。

 中には、電子ドラムもあれば、ボイパもあります。伝統に拘泥せずに軽やかに跳ねまわるところが彼の真骨頂です。「正しいリズムを見つけるということはあなたの人生があるべき場所に落ち着くということに繋がっている」と彼は語ります。オデッセイです。

 しかし、「全てのミュージシャンは一本の木から連なる枝であり、私にとってその木とはリズムのアインシュタインと言われる父のアララカである」とも語っています。偉大なる父という一本の太い幹があってこその縦横無尽な冒険なんでしょう。

 その父アララカは、このアルバム発表の年に鬼籍に入りました。そのため、トーフィクにとって初のスタジオでのコラボが含まれる本作品が父の最後の録音になってしまいました。アララカはボーカルも披露しており、枯れた声の味わいは何とも深みがあります。

 父親とのコラボのみならず、一曲一曲がリズムの探求を試みた貴重な録音になっています。彼は「正しいリズムを見つけ、やがてあるべき場所へと落ち着いた」と言っていますが、そこは見晴らしのいい場所なんだろうと思われます。晴れ渡っています。

 どの曲もリズムが多彩でぴちぴちと飛び跳ねているようです。生きたパーカッションというのは本当に聴いていて元気が出てくるものです。インド音楽に不慣れな人でも全く問題なく聴ける音楽でしょう。録音も見事にニュアンスに富んだサウンドを再現してくれます。

 私は幸運にも、一度、彼と兄ザキールが共演する姿を生で見たことがあります。ザキールが座ってタブラを叩いていたのに対し、トーフィクは立ったまま、電子ドラムやら何やらまわりに並ぶパーカッション類を嬉々として叩きまくっていました。夢のようなステージでした。

Rhydhun - An Odyssey Of Rhythm / Taufiq (2000 Free Spirit)

*2010年12月3日の記事を書き直しました。



Tracks:
01. The Other Rhythm
02. The Tree Of Rhythm
03. The Rhy In You
04. Ear To There
05. Nand
06. Rhy-dhun (nothing but voice)
07. Jiji Rhy
08. 1/2 To 16
09. Tree Of Thythm (Pure Mix)

Personnel:
Taufiq Qureshi : percussion
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Ustad Zakir Hussain
L. Shankar
Shankar Mahadevan
Ustad Allarakha
Geetika