小学校。
卒業式を終えても余韻浸るほどの年頃でもなくお受験とは関係ない田舎暮らしな僕らは新しく発売されたファミコンソフトの話題で他のピースが埋まるスペースなぞなかったわけだが、そんな1985年3月、クラスの女子数人が男子連中屯してた僕の家のベルを鳴らし「茜がまぁぼぅのこと好きだって」なんて神妙な顔して彼女がラベリングしたであろうカセットテープに手紙を添えて返事を促すような素振り。
憮然とした表情で受け取り、「ああそう」なんて棒読み返事はまわりの男子に冷やかされるのが一番嫌だったから。
本当は。
誰よりも意識していた相手だったのに。
同じ中学に入ってからも茜は僕と同じバスケ部に入って友人に押されながら僕と会話を試みるがことごとく無視した。
なんとでも言ってくれ。
本当に恥ずかしかったんだ。
茜はぶっちゃけむちゃくちゃ可愛かった。
子供心に眩しいくらいに綺麗だなってくらい美形だった。
小学校高学年の頃から目が合うと「あっかんべー」なんてお互いふざけ合って様々な授業中にノートの切れ端でしょうもない言葉伝達したり・・・だけど、意識してたんだよな、アイツ、だけじゃなくて僕もさ。
何度か彼女なりのアプローチを意識したが無視し続けた僕は責められて当然。
だけど、今みたいに決してオープンではない昭和後期、男性陣女性陣から冷やかされるのが嫌だった以上に好意を寄せてる人とどうやって接するのかわからなかったってのが思春期初期の僕の本音。
そしていつしか疎遠となり彼女は誰かさんの嫁となって、30数年。
昨日さ。
「茜、癌で亡くなったンやて」
と、旧友から聞いた。
「ああそう」
当時と同じ言葉を返しながら僕は目を閉じる。
なんだろな。
思春期のバカ野郎は茜色の空の眩しさに目を背けたことに何度も後悔したけどさ、やっぱ目を瞑って浮かんでくる彼女の笑顔、僕の初恋だったんだよな。
なんだろな。
胸がぎゅっと苦しい。
帰り道見上げると。
茜色の空はそれでも眩しくて。