車で20分も走ると、例の社長の会社がある、建物は古そうだけど、そこそこ広い敷地に小さな看板で「株式会社○中」って書いてある。

社屋の駐車場には国産の新型高級車、ぱっと見ただけでも新車で間もなく程度がいいのは素人だって分かる。

中型のトラックとワンボックスタイプの社用車が数台。

ちゃんとした会社なんだな...ってのが最初の印象。

従業員は年配の伊藤さん、小林さん、中川さん、それに俺より二つ三つ年上っぽい渡部くん。

どこにでもある中小企業って感じかな。

だけど、不思議な事に監視カメラなのか、防犯カメラなのか、カメラが複数台ある、一見すると暴力団の事務所みたいな雰囲気もある。

「おう、カズキよく来たな」

エントランスに現れたのが○中社長だ。

見た目はヤクザそのもの、かぶれてるのか?元ヤクザなのか?

前に見た時は一瞬だったし、仕事で出てしまっていたし改めて挨拶をした。

「はじめまして、近田社長の所でお世話になっています、ヒロミです、よろしくお願いします」


「おおう、カズキはいい若い衆持ってるなぁ、目がいいな」


口振りは立派な親分だ。


「うちの一番の若手です、ちょくちょくご一緒しますので、こいつの事もよろしくお願いします」


そう言うと、二人は社長室に入っていった。


俺は独り社内を見て回った。


倉庫の方では、伊藤さんが自転車を組み立てていた。


ざっと50台はある自転車は全て伊藤さんが組み立てたらしい。


「ここは何屋さんなんですか?自転車屋さんじゃないですよね?」


「ああ、これは明後日関西まで納めに行くんだよ。うちはなんでも屋、先週はバイク、先々週は洗濯機、その前はテレビだっけな...」


華奢な体なのに力強い動きで自転車を組み立てながら伊藤さんが教えてくれた。


商社...みたいなものなのかな?


社内の陳列スペースには雑貨や玩具、電化製品、パソコン、楽器、スポーツ用品までありとあらゆる物が置いてある。


iPadを手に取り見ていると

「おう、好きな物持っていっていいぞ」


はっと振り向いた先には○中社長が立っていた。


「それはSIMフリーだし、すぐに使えるぞ」


「新しいの買おうかなって思ってたんです、おいくらですか?  ここにある物全部値札が無くって」

苦笑いしながら答えると


「いいよ、今日は来てくれたお礼だ、持っていけ」


「あっいや、それは申し訳ないです、おいくらですか?買わせて下さい」


「いいんだよ、カズキの若い衆って事は俺の若い衆と同じようなもんだ、いいから持っていけ」


「兄貴がそうおっしゃってるだ、ヒロミ有り難く頂戴しておけよ」


カズさんが続けた。


「いや~、なんかすみません、これめちゃくちゃ欲しかったんです」

ってか兄貴?カズさん兄貴って言ったよな?えっ?兄貴?


人の懐に入るのが上手いっていうか、人を取り込むのが上手い、不思議な魅力のあるカズさんだけど、兄貴なんて呼んでる人は一人しかいない。

っていうか、一人しかいなかった。


混乱しながら欲しかったiPadを手に入れた俺は、ちょっぴり嬉しさが勝っていた。


その後は通りを挟んだ向かいにある喫茶店に三人で歩いた。


カラン♪カラン♪

昔ながらのドアの音の向こうには、悟くんがいた。

「えっ!悟くん?」


「ヒロミ!なんや来たんかいな!」

懐かしい声が飛んできた。


「ヒロミは知らなかったな?悟がここにいるの、○中社長と引き合わせてくれたのも悟なんだぞ」

カズさんがそう言って

「ただ、悟がここに居るのは知らない事にしておけよ」


悟くんはカズさんの後輩で、地元でヤクザをやっていた。

野球で借金作って居なくなったってことになっていた。


地元のその筋の連中が知ったら大変な騒ぎになるのは俺にだって想像できる。


そこで俺はピンときた!

昔から悟くんって鼻が効くっていうのか、お金の匂いには敏感で、ネタを提供してはカズさんが纏める、そんな事が数多くあった、これから何か二人で企んでるのか?この○中社長と何かをするのか?

いずれにしろ何かが始まるんだな...

そう俺は確かに感じた。


悟くんが煎れてくれたコーヒーをすすり、さっき貰ったiPadを操作しながら、とりとめもない会話を聞いていた、時には相づちを打ち、時には笑い、これから起こる何かを感じずにはいられなかった。


どれくらい時間が過ぎただろう?辺りはすっかり暗くなり

「よし、ちょっと出るか!」


そう言ってそれぞれの車に別れ繁華街へと向かった。


ネオンが眩しい夜の世界は、様々な人間模様を浮き彫りにする。

不思議な魅力のある世界、こんな形で踏み入れるとは...

立体駐車場には様々な高級車が並び、とりわけ車自慢の場所になっている。

一応、俺も車屋のはしくれ、あまり目にしない高級外車には知らず知らずのうちに目がいく。

数十億はくだらない価値の車を横目に空いたスペースに車を滑り込ませ、待ち合わせにのビルの前へと向かった。