すっかりアパートの住民だったMさんと猫の話になってしまったが、

私の父は貸家経営に苦労をした。


私の両親をお人好しだとも、貸家経営に不向きだとも思われたら、大歓迎だ。


例え「失格だ、やり直せ」と何度言われても、

私の両親はまた同じようにMさんに優しくするだろう。



私の母については、ここに書くとピンとくる友人もいるので、詳細は書けないが、

理系のエキスパートだった。


キャリアを諦めて結婚し、子育てをした。

結婚=専業主婦。

賛否は私にはわからない。

ただ、そういう時代だった。



父は必死で、私と兄が困らないように働いてくれた。


しかしとてもきつかったように思う。




九州の田舎、バブル崩壊後は、

「地元のみんなが潰れないように。」と、

同業者や他業者がライバルや他人ではなく、

仲良く手を取り合い、


同業者も他業者も含めた経営者同士、助け合っていた。

みんな必死だった。




父は経営者同士の親交を深める為に、年に数回、九州の温泉地に一泊旅行をしていた。


私は、父に友達が出来て良かったなと思いながら見送った。



経営者は孤独だと思う。


そんな中、同じ経営者の立場で、同世代の友達が出来て良かった。


九州のおいちゃん連中に囲まれて、楽しそうに笑う父の写真を見て安心した。


家では見せない父の笑顔だった。


苦労を分かり合える仲間たちと、男同士の付き合い。




しかも地元の経営者同士の為、私や兄の友達のお父さん達も何人かいた。


「俺らの父ちゃん同士って、仲良いよな。

父ちゃんが、メイの父ちゃんオモシロイって言ってた。」

と子供同士で笑った。





そんな中、Tさんという会社経営者がいた。

Tさんは比較的、裕福な会社の他業者の社長だった。


それでもTさんは、温泉旅行の日でも、

いつも当日の土曜日に地元で仕事を終えて、

夕飯ギリギリの時間に車を飛ばして、温泉ホテルで合流し、みんなと過ごした後、

翌朝の日曜日は、朝食の前に帰ってまた仕事に行った。


「Tさんが好きだ。

従業員をとても大事にする、立派な社長さんだ。尊敬する。」

と父は言っていた。



中小企業の社長は本当に大変だ。

従業員を休ませても、

社長は休めない。



九州の田舎町、

バブルの恩恵は全くなかったのに、

そのシワ寄せだけが来ていた



あんなに熱心だったTさんの会社は、バブル後の不景気、90年代後半に倒産した。


Tさんの息子もまた、私と同い年で友達だった。






父が楽しみに出かけていた、年に数回の経営者同士の温泉旅行も、バブル崩壊後、15年位してだんだんなくなった。


母が理由を尋ねると、

ほとんどの会社が倒産や廃業をしたのだと。


それから数年後、久しぶりにまたみんなで集まった。

全盛期は30社以上の社長仲間がいたが、

その日に集まったのは、生き残った3社だけだったらしい。




「何とか生き抜いていこう。

首なんか吊ったらいかん。


子供たちにも迷惑をかけないように、きれいに廃業しよう。」



そうやって励ましあったと母から聞いた。

中小企業を経営する、苦労や孤独を感じた。



一生をかけて築いた会社を、子供たちに迷惑をかけないように、ゆっくり、きれいに廃業する。

どんな気持ちなんだろう。


つまり私の父は中小企業の経営者であり、

大手のお金持ちではない。

そして大手でも大変なご苦労があるのだろう。



だからイギリス君の人生のゴール、

「経営者になり、世界一の金持ちになりたい。

そしたら妻子に、世界じゅうのものを何でも買ってあげられる。」


「ワインかジュエリー系」


やれるもんなら、やってみればいい。




だいたい他人の父を侮辱するなんて、性根が悪い。



例えどんなにドナルド・トランプが嫌いでも、

の子供に対して、

「お前の父ちゃんの髪型は…」なんて言ってはいけない。




「私の父を侮辱するな。」


あまりに腹が立った。



私はイギリス君のスカイプを放置し、

素敵なヨルダン君のスカイプのアカウントに行った。



ヨルダン君とのお互いを気遣う優しい英文をスクロールし、

見つけた。



ヨルダン君には、私の父の会社の話は詳しく話してはいないが、


「日曜日の夕方、世間がサザエさんを観ている時間に、私たち家族は海で遊んだ話」

をしていた。




ヨルダン君は、

「メイのお父さんは、

家族に愛を示した。」

と、イギリス君とは真逆のことを書いていた。


その一文に改めて、涙した。



これを読むだけで充分、

自分の人生に

いてほしい人間、

いてほしくない人間がよくわかる。





しばらくヨルダン君との会話をスクロールする。



もちろんヨルダン君が優しいのだが、

私もヨルダン君に対して優しい。



お互いが相手を気遣い、

リスペクトし、

とにかく仲良しだ。



ヨルダン君のメールで、

かっちーんとくる内容は全くない。



こればかりは、ヨルダン君の

生まれ持った人柄なんだろうな。




ネット情報で、

「ヨルダン人は人懐っこく話好き」とあった。


政情も、ヨルダンはまさに中東の優等生だ。

(というよりヨルダンの隣国すべてが悲惨すぎる。)



それでもヨルダンは産油国ではなく、経済的に恵まれているわけではない。


アフリカほど過酷ではないにしろ。



イギリス君よ、

ヨルダン君は必死で生きているよ。


そしてヨルダン君も、経営者だ。






しばらくして、イギリス君とのスカイプに戻った。