「心と身体の老いの折り合いをつけること」

 

信友直子監督のドキュメンタリー「ぼけますから、よろしくお願いします」を観てきました。

ご両親の1200日の暮らしを、自らの撮影、語りによって映画にした作品です。

 

介護問題を考えさせる社会性はもちろん存在する作品ですが、それとともに、急激に老いていく父母を慈しみながら捉え、いずれ失う親子の時を刻みながら、映像として遺そうとする気持ちが伝わってきました。

 

 

認知症の母と、妻の介護をしながら身の回りの家事に挑戦し、自立の努力をする耳の遠い父。

夫婦ならではの喧嘩もあり、夫婦だからこその思い合いで紡がれる日常があり、本当は凄絶なのに、老いて静かな愛を伝え合う両親を見守る娘の想いを感じました。

 

私は、毎年何度も入退院を重ねた母の死から12年、そして、数年の自宅介護の末に半年の入院で父を亡くしてから一年半。

映画の中での夫婦のやり取りや、お母さまの認知症の進み方が父でも経験があり、自分と重ねて観る場面が多くありました。

 

徐々に機能が失われていき、思うように動けないもどかしさをあらわすお母さま。

樹木希林さんは、「心のエネルギーが収まって行かないと…」と、心と身体のエネルギーのギャップを「年取ることの矛盾」として表現されていました。

心は若い時のように躍動しても、体力は落ちて身体は動いてくれない、老いの実態。

人の手助けなしではいられなくなる、失っていくことの不安と現実の凄絶さを内に秘めて、でもせめて、心は若くいられることを善しとして…。

 

夫婦が向かい合い、「お互いに年取ったね」と言いながら、

心は昔と同じように互いを思い合っていることを確認する姿。

 

95歳にして知識欲は衰えず、新聞の切り抜きをして、縫い物や洗濯にも挑戦するお父さまの姿に父を重ねて・・・、

久しぶりに亡き両親との懐かしく温かな時間を過ごした映画観賞でした。