コンコンコン

「失礼しまーす…」

今はほとんど使われてない資料室、

奥の方にある、古びたソファの上。

背中を丸めて、

ぐっすり眠ってる松本さんの横顔。

繁忙期の真っ只中、

毎日遅くまで仕事してるせいで

疲れが滲んでる白い頬。

このまま寝かせてあげたいけど。

「時間きたら絶対起こして」

仮眠する前にそう言われたから、

起こさないわけにいかないし。

「松本さん、起きてください」

「………」

「松本さん？」

「………」

「松本さーん。お時間でーす」

「………」

「松本さーーん」

ゆさゆさゆさ

腕のあたり、

ゆさゆさ揺らしてみるけど。

「んー…」

ぐっすり眠ってるから、つい。

起きる様子がないから、つい。

「潤、起きて」

「…………」

「潤？」

「…………」

「じゅーん、起きてー？」

「…………」

潤、って…

じゅーん、って…

呼んじゃった！！

呼んじゃった！！！

呼んじゃった！！！！

ドキドキドキ

そわそわ嬉しくてひとり勝手に、

ドキドキドキ。

眠ってる松本さんの

きれいな寝顔をじっと見つめる。

整ってるまゆげ。

凛々しく通った鼻すじ。

くちびるのとこのほくろ。

パーツのひとつひとつ。
とってもきれいだから。

ついうっとりと、見とれちゃう。

「…はっ、まずい」

腕時計を確認して

あわてて体を揺らす。

「松本さんもう起きないと。

時間過ぎてます」

「………」

まずいまずい。これはまずい。

このまま起きなかったらどうしよう。

わたしが起こさなかったせいで

仕事に支障きたしたら大変！

「松本さんっ」

気持ちよさそうに眠ってるとこ
ほんとに申し訳ないけど、

ここは心を鬼にする。

「起きて起きて！！

起きてくださーーーいっ」

「んー…？…っああーー…」

ようやくうっすら目を開けた松本さんと

至近距離で目があう。

「おはようございます」

「………」

ゆっくりゆっくり、
まばたきしてる目。

長いまつ毛。

寝起きの松本さんは
あどけなくてかわいくて、
天使みたい。

か、か、かわいい…

か、か、かわいい…

天使…

松本さんてばやっぱり天使。

エンジェル！

エンジェル！！

エィンジェル！！！

いつもちょっと意地悪で、

いつもちょっと…

いや、ちょっとどころじゃなく

いつも容赦なく厳しい松本さんだけど。

寝起きの顔がこんなに無防備で

かわいいなんて…

誰も見たことない特別な表情、
わたしだけが知ってるみたいで
ちょっとだけ、優越感。

ドキドキドキ

ふわふわ嬉しくてひとりで勝手に、

ドキドキドキ。

「起きれますか？」

「…うん」

うん、て！！
うん、て！！

か！わ！い！い！

か！わ！い！い！

わたしの中の

かわいいの感情が止まらない。

まだまだ、寝ぼけたまなこ。

ぱちぱち、小さくまばたき。

「…あーーー」

「起きてください」

「…起きてる」

「起きてませんよ全然」

「起きてるっつーの」

だんだんと。

松本さんが
松本さんになってくる。

天使が隠れちゃって、

ちょっと寂しいような。

でもでもやっぱり、

松本さんが松本さんで、

すごくすごく、嬉しいような…

「昨日も遅かったんですよね、

お疲れさまです」

「んー…」

結局また、目を閉じて、

ぐらぐら倒れ込みそうになってるから

すかさずソファの後ろに回りこんで、

肩のあたり、
強制的にぎゅうぎゅうマッサージ。

「っあーー…」

ヘンな態勢で横になってたからかな、

首もとがぱんぱんだから。

少しでもほぐれるように

一生懸命マッサージする。

「すっげ…血巡ってきた」

「肩こりすぎじゃないですか？」

「んー…」

「マッサージくらいお安い御用ですから！

こんなになる前にいつでも言ってください」

「ん。笑」

「ここ、、めちゃめちゃこってますっ」

「あーーすげー気持ちーわ…」

わたしにすっかり、

身を委ねてくれてる松本さんが

嬉しすぎてキュン。

「サンキュ。目覚めた」

わたしの手、ぽんぽんってして

振り向く顔はもう、

いつもの頼れる松本さん。

か、か、かっこいい…

「じゃあわたしもう行きますね」

「あ、そうだ」

「…？」

「もっかい呼んでよ、潤って」

「…！！！！！」

「じゅーん起きてーって。笑」

ちょっと意地悪な、

松本さんの悪い笑顔。

ドキドキしてドキドキしすぎて、

息が止まっちゃいそう！

「けっこう良かったよアレ。笑」

色っぽい、セクシーな笑顔が、

一瞬でさっと近づいてきて。

「…え、」

一瞬きゅっと、抱きしめられて。

わたしを引き寄せるように

後頭部にまわされてた大きな手に

ぽんぽんぽん

アタマを優しく、撫でられて、

びっくりしすぎて倒れそう！！！

「さ。仕事すっかぁ」

「…………」

「ほら。戻るぞ」

「は、はいっ」

ドキドキときめきが止まらない。

ドキドキが止まらないです！

松本さん！！

(初出：2018.12.28)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

読んでいただき

ありがとうございます(^^)

こないだアップしたSS2話が

翔さんを起こす回だったんで、

似たシチュエーションで潤くんも♪

かっこよくてかわいくて、

オトコっぽい松本先輩は最強よね…

潤くんに会いたいなぁ…しみじみ。

ステイホーム中の気分転換に

楽しんでもらえてたらこれ幸いです(^^)

【妄想小説】君のために僕がいる(4)