「このまま…どっか泊まらない？」

甘い空気の雅紀が
わたしの首すじに顔を埋めたまま、

小さな声でつぶやく。

サービスエリアの広い駐車場、

静かな車の中。

何度も重なったキスのあと、
甘い色気のままに雅紀が

「どっか泊まらない？」なんて言うから。

もうずっと、信じられないほど

胸がキュンとしてて。

思わず「うん」って頷く。

わたしもそうしたいって

思った気持ちのまま、頷いたけど。

「オレたちの時間…

もう今日しかないじゃん。
明日の夜にはオレ、向こう戻るから」

さっきまでキュンとしてた気持ちが
雅紀のひと言でズキンに変わる。

日曜日が終わる頃に雅紀は。

雅紀の住む街へ帰ってしまう。

去年の春、転勤で引っ越して行った、
ここから車で半日はかかってしまう、
雅紀の住む街へ。

気持ちが通じ合った現実は

すごくすごくうれしくて。

でも明日にはもう
はなればなれになる現実は

すごくすごく苦しくて。

ドキドキ気持ちが忙しい。

「…そんな顔しないでよ。

まだまるまる１日以上あるよ？笑」

わたしどんな顔してるんだろう。

見られたくなくて

自分でほっぺを包むようにして、
ふー、と息をはく。

のぞきこむようにしてた雅紀が、

そっと頭を撫でてくれる。

優しく笑ってる雅紀だって。
泣いてるみたいだよ？

「よしっ。

そうと決まれば実家に説明しなきゃ。

ね！急ごう！」

わざと明るい声を出してくれてる雅紀に
目が潤みそうにになるけど。

ゆっくり車を発進させた横顔を見てたら
そうだよ、まだ一緒にいられるんだからって
気持ちを立て直す。

*:..｡o○☆ﾟ･:,｡*:..｡o○☆

「あ」

「ん？」

車は市内に入って、
わたしの実家まで向かう間に。

「LINEしようよ、翔ちゃんに」

運転中の雅紀にそう言われて、
ああ！って翔くんのことを思い出す。

「実家の前にまず、

翔ちゃんだよね報告しなきゃなんないの。
さっきはチューしちゃって

電話できなかったから…痛って！」

雅紀の軽口に思わずわき腹を叩く。

「あっぶね！オレ運転中だかんね？」

なんだかんだ言いつつ、声が楽しそうで
わたしもふわふわした気持ちになって。

トーク画面を開いて、文字を打つ。

”おはよー。起きてる？”

すぐにつく既読。

「あ。起きてるよ翔くん」

「今何時？もうすぐ１２時じゃん。

さすがにもう起きてるでしょー」

翔：おはようございます。さっき起きたなう

謎の生物がおはよう！ってしてる

スタンプとともに返信がきた。

これなんの生物なんだろう。
翔くんていつもスタンプのセレクトが

絶妙に変だよな…。

「あっ、ねえ雅紀。

なんて書いたらいい？」

文字を打とうとしたところで
なんて書いたらいいのかわからなくなって
運転席の方を見たら。

ニヤリってちょっと悪い顔した雅紀が。

「おかげさまで、

雅紀とラブラブになりました、ハート！
じゃないの？そこは！」

ってものすごく楽しそうに。

「ばっ…！

そ、そんなこと書けるわけないでしょ！」

きゅうにすごく恥ずかしくなる。

ああそっか、

これから翔くんに報告するんだって思ったら
きゅうにすごくすごく、恥ずかしくなる。

既読がついてるのに

返信がないこと不審に思ったのか。
翔くんから続けて届く文字。

翔：雅紀に言えた？

翔：お前なら大丈夫だから。ガンバレ

翔：遠距離だって大丈夫だよ

翔：ガンバレ！健闘を祈る！！

続く言葉の後に、

エールを送ってる謎の生物のスタンプ。
旗をフリながらGO！GO！って動いてる、

謎の生物。

「………」

ずっとずっと、

わたしたちを見守ってくれてた翔くん。

いつもそっと、背中を押してくれて。
ありがとうね、翔くん。

ぐすっ

泣くつもりなんて全然なかったのに、
涙が出てきて。

「えっ？ちょ、ちょっとなに？

なんで泣いてるの？
翔ちゃん？翔ちゃんなに？？？」

焦った雅紀が

大きな声であわてる声がおかしくて。

運転してるから

こっちもちゃんと見られない雅紀が
もどかしそうにしてるサマがうれしくて。

泣いてる顔で笑っちゃう。

窓から差し込んでくる日差しが

あたたかさを増していて。

これからどうなるかなんて、
そんなことなにも、わからないけど、

すごくすごく幸せだなって…
そう思ったんだ。

(初出：2015.8.25)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

こんにちはー。

ストレスMAX！のときに
わたしを助けてくれる「あいのは」雅紀でした。
たいした展開もないくだりですみません。
励ましてくれる翔くんが書きたかったんです。
(この位置にいてくれる翔くんが

大好きすぎるわたし)
お付き合いありがとうございました。

そうそう、このふたりって

遠距離恋愛だったんですよ、
知ってました？（誰も知らないよ）

このあとね、

まあ泊まっちゃうんですけど…♡
泊まりにいっちゃうんですけど…♡

いつになるかわかりませんが、
そのうち書けたらいいなぁ。

【小ネタメモ】

東京―名古屋くらいの距離を

イメージして書いてました。

新幹線だと近いけど

車だとちょっとかかるよね、的な。

北海道でいえば札幌―函館かな(^^)

ひさびさに東京に戻ってきたから、

「飲もうぜ飲もうぜ～」って翔くんが誘って

金曜は翔くんの家にそのまま１泊、

土曜は実家で１泊して

日曜に名古屋に戻る予定だった、

本来はそんなスケジュールだったけど、

「このまま…どっか泊まらない？」

ってことにね！なっちゃうよね！

そりゃあなっちゃうよね！！(興奮)

お付き合いどうもありがとう(^^)

また次回も一緒に、楽しんでもらえたら！

【妄想小説】あいのは(4)