<第9話>

affection

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

細いのに、
がっちりしてて。

からだ全部、
しなやかに強くて。

いつもすごく、
男の人だなあと思う。

雅紀くんはすごく…男の人。

優しく触れる手。
つつまれる匂い。
艶っぽいまなざし。
熱い汗。

雅紀くんの全部にきっと
これまでのわたしなんてきっと

簡単に、あっけなく、
変えられてしまう。

「…気持ちいいね」

耳に流れ込む
雅紀くんの甘い甘い声。

思い出しただけで
からだの奥がぎゅって震える。

「LINE…鳴ってるよ？」

「んー」

ベッドサイドに置いてる携帯、
ひっきりなしに鳴ってるのに。

ちょっと確認するだけですぐ
ぽいって投げる色のない瞳。

その携帯は明日のわたし？

雑に投げられた携帯に
自分を重ねて、怖くなる。

雅紀くんは誰のもの？

目を逸らしてる事実に…

胸がぎゅうううっと痛くなる。

ふたりきりでいる時間は

夢みたいに幸せなのに。

見つめあう瞳、

見つめる雅紀くんの瞳の中には

わたししか映ってないように…

感じるのに。

*:..｡o○☆ﾟ･:,｡*:..｡o○☆

「なんでだよ」

静かな怒りが浮かんでる顔。

「なんで彼女いる男なんか、」

はー…って
盛大なため息。

「お待たせいたしました」

タイミングよく運ばれてくる
コーヒー。

助かった、なんて思ったのに。
突き詰めてくる潤くんは、
容赦ない。

「そいつ…

彼女と別れるって言ってんだよな？」

「………」

「言ってんだろ？」

「………」

「…お前マジかよ」

「わたしが勝手に好きになって、」

「そうじゃない」

容赦ない潤くんに
追い詰められる。

「順番はしょうがないけど、
お前のことほんとに好きなら、」

わかってる。

「そんなんじゃ…未来ないだろ」

わかってる。
わかってるよ。

でも未来なんて。
未来なんて今は、
考えられないの。

目を伏せた潤くんが

コーヒーをひと口飲む。

持ち手じゃなくて、ひょいって
カップまるごと持ち上げて飲むところ。

昔からちっとも変わらない。

「好きになるのなんて…
理屈じゃないことくらいわかるよ」

「わかるけど、でも」

わたしを見据える潤くんの瞳。

「…お前が傷つくの見たくない」

傷つく？

雅紀くんを失うことに比べたら
傷つくことなんて。

「大丈夫だよ」

「大丈夫じゃねーよバーカ」

ずるずるとソファに背中をもたれかけて
窓の向こうを見てるきれいな目。

遠く向こうを見てるのに

まるで何も見ていないような、横顔。

「…雨だね」

話、切り替えたくて
小さくつぶやいたわたしにまた、
大きなため息。

「あームカつく」

「ごめん」

「オレにムカついてんの」

「え？」

「…自分にいちばんムカついてんの」

「………」

「送ってく」

準備を整えて
さっと立ち上がる潤くんに焦る。

「いい」

「雨降ってるし車だから、」

「いいの。電車で」

言葉をさえぎったわたしを
じっと見る視線。

もうバレてる。
雅紀くんのところに行くってこと。

「…送る」

きっぱりとそう言い切る
潤くんの迫力には逆らえない。

*:..｡o○☆ﾟ･:,｡*:..｡o○☆

「ここでいい？」

「うん…ごめん。
送ってくれてありがとう」

カチッカチッ
ウインカーの音。

パラパラ落ちてくる雨粒。
ゆっくり動くワイパー。

「じゃあ行くね」

「あっ待って、
置き傘トランクにある」

ガチャ

ドア、一瞬開けて
取りに行こうとしてたのに
すぐにまた閉める潤くん。

なに？

「…やっぱ貸さない」

「え？」

「傘なくたっていけんだろ」

突き放すみたいな目。
傘…なくても歩けるけど。

「しょーもないお前に貸す傘ねえわ」

「ひどい！」

「ひどいのはどっちだよ」

「え？」

「なんでもない。
ほら早く行けって」

とん、って肩を押す手。

突き放すみたいだった目は
いつの間にかすごく…

せつない色に変わってる。

「さっさと振られろバーカ」

絞りだすみたいな潤くんの声、
聞こえないフリしてバタン！って
ドアを閉めた。

affection

(初出：2016.5.25)

(第10話へつづく)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

m(__)m

読んでいただき

ありがとうございます。

8話に引き続き、

2016年のRebornとなりました第9話です。

描写などちょっと、手を入れてます。

前回とaffectionの間にもう1話、

新たに入れる案も考えてたのだけど、

結局続けての方がしっくりきました。

できれば水曜日に第10話…

書きたい、書く！書ける！(ことだま笑)

次回もどうぞ、

よろしくお願いいたします(^^)/

【妄想小説】優しい雨(9)