【妄想小説】優しい雨(6) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

<第6話>
ピアス
 
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
「雨あたんなかった?」
 
「大丈夫だったよ、
でももうすぐ降ってきそう」
 
「だよね。良かったよ、降る前に着いて」
 
「蒸し蒸しして暑いね」
 
「ほんと、あっついよねー。
オレすぐ汗かいちゃうからさ、
ちょうツラいよこの湿度」
 
ピッ
 
エアコンの温度を下げる、
雅紀くんの大きな手。
 
ドキドキドキドキ
 
部屋に入ったら来る前よりずっと、
心臓がうるさくて。
 
さっきからそわそわ落ち着かない。
 
「あ…あじさい」
 
image
テレビの横のスペースに
ちょこんと飾られた低い花びんに
咲き誇ってる瑞々しい香り。
 
 
あじさい、と声に出してから、
きっとこれは彼女が活けたんだなって
すぐに思い至って苦しくなる。
 
 
胸の中いっぱいに広がる、
真っ黒な感情。
 
 
こうやって、
ふたりきりで会うこと、
雅紀くんはどう思ってるの。
 
どういうつもりで
部屋に招き入れたの?
 
 
わたしはもう
気持ちがこぼれそうなのに。
 
ふたりきりなのが嬉しくて
時間が止まっちゃえばいいのにって
思ってるくらいなのに。
 
 
ピロン!
 
 
ああもう…
 
想いでいっぱいのわたしを
現実に引き戻す着信音。
 
潤:仕事終わった?メシ行く?
 
またしても
絶妙なタイミングで届くLINE。
 
潤くんはエスパーなのかな。
まるで”そっちには行くな”って
言われてるみたい。
 
1歩踏み出そうとしてるわたしに…
最後通告してるみたい。
 
 
「”お兄ちゃん”からLINE?」
 
「ああ、、うん」
 
「返事しなくていいの?しなよ」
 
「…うん」
 
 
”ごめん今日はパス”
 
 
送ったらすぐ既読がついて、
”了解”の返事が来る。
 
その後に、かわいい犬のスタンプ。
潤くんが最近よく使うやつ。
 
ドキドキしてるのは
罪悪感なのかな。
 
ちょっとうしろめたい感情。
気持ちは妙に、焦ってる。
 
 
「アイスコーヒーでいい?
ちょっと待ってて」
 
「雅紀くん」
 
「ん?」
 
キッチンに向かってた高い背が
くるりと振り返る。
 
ただ突っ立ってるわたしを
まっすぐ見つめる、優しい目。
 
カーキ色のラフなTシャツ、
腰履きしてる緩めのパンツ、
さらさら茶色の髪。
 
雅紀くんのことが
好きで好きでたまらない。
 
雅紀くんがどんな人でも。
たとえ”悪いオトコ”だったとしても。
 
この気持ちをもう
ないことになんてできない。
 
「ふっ…どしたの。笑」
 
いつものわたしと違うこと、
悟ったような雅紀くんが
近づいてきて頭を撫でる。
 
いいこいいこってするみたいに、
優しく甘く髪を撫でられたら、
 
わたしのこと…少しは特別に
思ってくれてるんじゃないかって
期待しちゃうのに。
 
大きな手のひらの温度。
胸が苦しくて涙がでそう。
 
 
「雅紀くん、ピアス」
 
「そうだごめんごめん。
ピアス取りに来たんだよね。笑」
 
一旦離れた距離がまた近づいて。
 
目の前の雅紀くんから、
オトコらしい香水の香り。
 
ドキドキドキドキ
 
落ち着け落ち着け落ち着け
 
心の中で何度も繰り返す。
 
「はい。これ」
 
「………」
 
雅紀くんの手のひらの上にある、
ゴールドのピアス。
 
ウェーブを描いたかたち、
輪が絡まったゴールドの先に、
揺れる小さなパールがひとつ。
 
わざわざ来てもらってごめんね」
 
「このピアスわたしのじゃないよ」
 
「え?」
 
初めて見る、びっくりした顔。
 
眉間に寄せられたしわ、
ちょっと深刻な表情もカッコいい。
 
「雅紀くん、
わたしもピアスの穴あけてないの」
 
「え…、」
 
髪を耳にかけて。
目の前の高い背に向かって、
ほらって耳たぶを見せるように。
 
「ね?あいてないでしょ。笑
だからそれ、わたしのじゃない」
 
「…じゃあどうして、」
 
「会いたくて」
 
「………、」
 
「雅紀くんに、会いたくて」
 
 
1歩、近づく。
 
雅紀くんの喉仏が
ゴクリ、と動いたような気がする。
 
 
「…好きなの」
 
 
見つめ合う瞳、
アーモンドみたいな形の
きれいな目。
 
まっすぐ見つめて、
まっすぐに、伝える。
 
「好き」
 
「………」
 
「雅紀くんが好き」
 
こつんとおでこを
目の前の広い胸に寄せる。
 
腕を回してきゅっと抱きついたら
カーキ色のTシャツから
雅紀くんの緊張が伝わってくる。
 
「……ダメだよ」
 
「彼女がいるから?」
 
そうだよ、と言われる前に
急いで言葉をつなぐ。
 
 
「ピアスの人は良くて、
わたしはダメなの?」
 
 
この部屋に招き入れてるのが、
彼女だけじゃないなら。
 
わざわざピアスを落として
存在をアピールするような、
他の女の影もあるなら。
 
わたしだけがダメな理由、
なにもないでしょ…?雅紀くん。
 
困ってるみたいな表情。
 
諦めが滲むような黒い瞳は
ますますわたしを惹きつける。
 
「オレは…ダメだよ」
 
「どうして?」
 
「オレめちゃくちゃだし、そんな…
思ってもらえるようなヤツじゃない」
 
「そんなこと、」
 
「”お兄ちゃん”が心配するよ」
 
「そんなこと言わないで…!」
 
 
ぎゅっともう一度。
薄い身体に抱きつく。
 
戸惑いながらも
ぐっと受け止めてくれる優しい胸。
 
 
「雅紀くんが好きなの」
 
「…………」
 
「雅紀くんじゃなきゃダメなの」
 
「…………」
 
 
好きで好きでたまらない。
 
 
彼女がいても、
他の女の影があっても、
 
たとえ”悪いオトコ”でも。
 
 
この気持ちを
ないことになんてできない。
 
 
カーキ色のTシャツの裾、
きゅっと握ったら、
 
困ってたみたいな表情は
真剣な色に変わる。
 
艶っぽく濡れた瞳に
まっすぐに射抜かれて
息が出来なくなる。
 
 
「オレなんかダメだよ」
 
 
ちゅっ
 
 
ぐっと屈めた身体、
雅紀くんのくちびるが
わたしのそれに一瞬重なる。
 
 
キス、って思った瞬間、
 
 
ぎゅっと強く
あたまを引き寄せられて。
髪の間に、耳の後ろに、
大きな手、長い指の感触。
 
 
「雅紀く、」
 
 
わたしの言葉を飲み込むように
さっきより強く、重なるくちびる。
 
熱くて熱くて熱くて、
苦しくて苦しくて苦しくて、
 
「…ん」
 
 
ずっとずっと近づきたかった、
ずっとずっと触れたかった、
 
熱に、温度に、匂いに、
そっと目を閉じる―
 
 
 
<第6話>
ピアス
 
(第7話へつづく)
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
 
m(__)m
 
読んでいただき
ありがとうございます(^^)/
 
「オレなんかダメだよ」
 
からのキス!!
はーー。最高ですね。。(偏った趣味)
 
まだまだ続きます。
次回もまたどうぞ、
よろしくお願いします。