【妄想小説】そして春の風(8) | 彼方からの手紙

彼方からの手紙

ラブレターフロム彼方 日々のお手紙です

第8話

おとなの掟

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

ニノの店:カウンター

 

「~♪」

 

「どしたの大野さん」

 

「?」

 

「なんか鼻歌歌ってたけど」

 

「マジ?無意識だった」

 

「…………」

 

「ハニーのクセうつったんかな。笑」

 

(智 うれしそうにニコニコ)

 

「それさあ」

 

「?」

 

「ハニーってあいつのことでしょ?

つきあってんの?」

 

「え、今さら?つきあってるよ。笑

 

「いや、ふたりで一緒に、

店来るとかないじゃん。

だからあんま、ピンとこないっていうか」

 

「向こういっつも忙しそうだからさ。

誘いづらいのもあんだけど、

ニノんとこでは仕事したいかなって思って」

 

「あーなるほどね。たしかに」

 

(ニノ 若干納得の表情)

 

「大野さんチョコ食う?」

 

「くれんの?食う食う」

 

「余りもんだけど」

 

(ニノ カウンターの中からチョコを数粒渡す)

(智 さっそく黄色の包み紙を開けて食べる)

 

「…うまっ。チョコひさびさ食った」

 

「ひさびさ?」

 

「?」

 

「バレンタイン、もらわなかったの?」

 

「…………」

 

(智 あれ、もらってないな?の顔をしつつ)

 

「いんだよ、別にそういうのは。

オレも行事とかこだわりないし」

 

「まあそっか。そんなもんか」

 

(ニノ 一緒にチョコをもぐもぐもぐ)

 

*:..。o○☆゚・:,。*:..。o○☆

 

「はいできたよ。これ表紙分ね」

 

「………」

 

「ちょ、またぼーっとしてる」

 

「…ごめん」

 

「さっきからオレのことすげー見てない?

そんな見られてたら…描きにくい。笑」

 

「ごめんごめん。そうだよね」

 

あの日逃げるように帰ってきて、

結局チョコも渡せないまま、

今月の〆切作業がやってきたけど。

 

久しぶりに、

部屋でふたりきりだから…

ドキドキしちゃって全然手が進まない。

 

大野さんが描いたイラストは

今日もやっぱり、ものすごく素敵で。

丁寧に描き込まれた線は

繊細なのに大胆で、唯一無二で。

 

神様。

 

あなたはこの人に

二物も三物も与えすぎではないですか。

 

こんなにすごい絵が描けて

体を動かせば踊るようにしなやかで

さらにいつも、ものすっっごく!

こんなにかっこよくて素敵だなんて…

 

「だからオメーは。

なんでそんな見んだよっ。笑」

 

ふわんと笑う顔は

すごくすごくかわいいのに、

 

ぐっと伸びてくる大きな手は

ごつごつ節ばっててセクシーだから、

またドキドキと心臓がうるさい。

 

「どした。文章浮かばない?」

 

「………」

 

いいこいいいこってするみたいに

頭を優しく撫でてくれる手に、

気持ちが溢れて、止まらない。

 

「今日はいつもの歌、

全然出てこないじゃん。スランプ?」

 

「………」

 

「そういう日もあるか…って、うおっ」

 

何も言わないままただイキオイよく、

胸に飛び込んだわたしを

びっくりしながらもちゃんと受け止めて、

ぎゅっと抱きしめてくれる男らしい腕。

 

「…なんかあった?」

 

背中を撫でてくれる手のひらに、

優しい色が滲む甘い声に、

涙がこぼれそう。

 

さくら、って誰?

ふたりはどういう関係なの?

 

すごくすごく気になってる。

すごくすごく気になってるけど、

やっぱり何も、聞けない。

なにひとつ全然、聞けないままで。

 

ああもうどうしてわたしは、

どうしていつもこうなの。

 

「…ん」

 

ねだるみたいに頬を寄せたら、

ちゅっと優しいキスが降ってくる。

 

愛されてるって錯覚しちゃうような、

恋人同士みたいな甘い甘いキス。

 

ちゅっと小さく触れたあとに

急にオトコっぽい雰囲気、

迷いなく落とされるくちびるは

すごくすごくセクシーで、

触れる舌は熱くて、

 

色を持った目で見つめる

その瞳はすごくすごく艶っぽくて…

 

いい。

もういい。

 

わたしもう、

都合のいい女でいい。

 

何かを確かめて

この関係すらなくなるくらいならもう、

カラダだけだろうがなんだろうがもう、

 

「…ああっ」

 

白黒つけなくていい。

曖昧な関係のままでいい。

 

”好き”

 

そんな言葉、

言わなくたっていい。

 

”好き?”

 

そんな言葉で

確かめなくっていい。

♪好きとか嫌いとか欲しいとか

口走ったらどうなるでしょう

 

目を閉じた向こう側、

頭の隅に聞こえてくるメロディ。

 

♪ああ白黒付けるのは恐ろしい

切実に生きればこそ

 

知らなくていいことを知って、

傷つくくらいなら。

 

知らないふりのまま、

あなたといたい。

 

見つめあう目。

素肌をすべる、甘い感触。

 

この手が、このくちびるが、

今だけでも、わたしのものなら。

 

「智…」

 

こうしてるあいだだけでも

名前で呼ぶことができるなら。

 

それでいい。

それだけでいい。

 

わたしもう、

都合のいい女でいい…!!

 

 

第8話

おとなの掟

 

(初出:2020.2.25)

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

読んでいただき、

ありがとうございます(^^)/

 

前半部分、少し加筆してみました。

完全にすれ違っちゃってますが、

ハッピーエンドまであと少しなので(^^)

あと4話、楽しんでもらえたら。

 

全10話と思ってたら12話だった…笑

3月中には終わんないね、

4月頭にはみ出すね(^^;)

 

曲はドーナッツホールの「おとなの掟」

image

ちょっと懐かしいな。好きな曲です。

 

最後までお付き合いありがとう!

今週もぼちぼちいきましょう(^^)/