メガポコは激怒した。必ず、この女性恐怖症の心を除かなければならぬと決意した。
メガポコには女心が分からぬ。
メガポコは、クラスのいわゆる陰キャラである。本を読み、女子から逃げて暮らしてきた。
けれども厄介なことに、女子の視線に対しては、人一倍敏感であった。
今日正午、メガポコは家を出発し、野を越え山を越え、この桜井にある中学校へやって来た。
メガポコには才も、色も無い。恋人もいない。あるのは学年平均順位20位の、中途半端な学力だけだ。
彼は、市内のあるそこそこの進学校を、近々受験することになっていた。入試も間近なのである。
メガポコは、それゆえ、面接の練習やら受験の諸注意を聞きに、はるばる学校までやってきたのだ。
メガポコには同じ班で練習するメンバーの男子がいた。Kである。今はこの3年B組で、級長をしている。
そのKと、教室で落ち合うことになっていたのだ。男子一人と言うのは心細かったので、会うのが楽しみである。
歩いているうちにメガポコは、学校の様子を怪しく思った。Kの自転車が無い。
既に集合時間ギリギリとはいえ、ルーズなKが来ていないのは当たり前かもしれないが、けれども、なんだか、時間のせいばかりでなく、嫌な予感がしてならない。のんきなメガポコも、だんだん不安になってきた。
廊下で会った担任の先生をつかまえて、何があったのか、昨日の連絡では、全員来れると聞いていたはずだが、と質問した。
先生は、特に周りを気にしない様子で答えた。
「Kは、今日来ません。」
「なぜ来ないのだ。」
「大事な用があるというのですが、だれもそんな、テンプレのような言葉など信じておりませぬ。」
「驚いた。KはDQNか。」
「いいえ、多少チャラいですが、DQNではございませぬ。ただ、来るのが面倒くさいと言うのです。」
メガポコは額の汗を拳で払い、ここまで来れば大丈夫、もはや面接への緊張はない。
入試だって、きっと上手くいくだろう。
俺には今、何の気がかりも無いはずだ。
まっすぐに教室に行き着けば、それでよいのだ。
そんなに急ぐ必要も無い。ゆっくり歩こう、と持ち前ののんきさを取り返し、好きな小歌をいい声で歌いだした(ああ痛い痛い)。
ぶらぶら歩いて2歩3歩行き、そろそろ教室の前に辿り着いたころ、降って沸いた災難、メガポコの思考は、はたと止まった。
見よ、前方のクラスを。
昨日の連絡をうけて来たクラスの女子が、一人暇そうに教室内をうろうろし、静寂深々と教室は静まり、シーンという擬音すら聞こえないほどの沈黙が、木っ端微塵に彼の心を叩き壊していた。彼は茫然と立ちすくんだ。
あちこちと眺め回し、また、心の中で呼びたててみたが、男子は残らず惰性にさらわれて影なく、先生の姿も見えない。会話はいよいよ欠片も見せず、ただのしかばねのようだ。