忘れっぽい私にも、忘れられない風景がある。

それは、長男を出産後、里帰りしていた実家の和室から見た夏の空と、パパイヤの木の葉っぱ。


クーラーの効いた涼しい部屋から見える空は真っ青な夏空で、庭に植えているパパイヤの木の葉っぱが風にそよいでいた。

沖縄の夏の日差しを受け、葉っぱもきらきら輝いていた。


2008年7月23日の朝、長男が産まれた。

初めての出産。


待合室で待っていた母は

「東側の窓からちょうど朝日が昇ってくるのが見えた。そんな時に『産まれました』と看護師さんから教えてもらった」とお産を終えた私に興奮気味に話していた。


朝日と共に産まれた長男は今年16歳になった。


長男の出産予定日は8月9日だった。


「北京オリンピックが8月8日に開催されるから、名前はぺきんちゃんにしたらいいさー」と冗談で父は笑いながら話していたが、実際には予定日よりも3週間早く産まれてきた。


現在、パリオリンピックが開催されているが、オリンピックが開催される度にその時のことを思い出す。


お産のため入院していた産婦人科クリニックから退院した日も暑い日だった。


南向きの窓がある和室に生後7日の長男と、私と布団を並べて敷いてごろんと横になった。

そんな時に窓から見えていたのが、夏の沖縄の真っ青な空と、風にそよぐパパイヤの木の葉っぱだった。


こんなにきらきら輝く世界に産まれてきた赤ちゃん。


ルイ・アームストロングのWhat a wonderful worldを思わず口ずさみ、ちょっぴり涙がこぼれた。


16年経った今、長男の身長は170㎝を超え、「うっせー!ばばあ!」なんて事を言い、ゲームに夢中になっている。


北京オリンピックの体操団体で銀メダルを獲得した選手が、現在コーチとなり、その教え子がパリオリンピックで金メダルを獲得したそうだ。


確実に時は流れ、31歳だった私も今年47歳になり、3人の母親になっている。


忘れっぽくなった私も、あの、実家の和室でごろんと寝ながら見ていた夏の空を、

私の側ですやすや寝ていた長男の、新生児特有の匂いを今でもありありと思い出すことができるのだ。


今月下旬に実家へ帰省する。


あの時のパパイヤの木は枯れてしまい、今はもうないけれど、夏の空はあの時と同じようにまばゆく輝いていることだろう。

あの空と出会えるのを心待ちにしている。