その日の午後、西野マナブは、浅益新聞社に出社した。
上司の氷川ケイゴを見つけると早速に2人で会議室に入り、午前中の城悠大学での出来事を
荒布教授から受け取ったメモを片手に報告をしたのである。
「基本的には、電波より更に高周波の放射線を使って生物のDNAなどに突然変異を
誘発させる技術がありまして、電波合成によって放射線的な効果を持つ電波が生じた場合、
その威力が微弱であっても生物より更に微細なウイルスのRNAを突然変異させる可能性が
あり得ると言うことがベースです。
そして、結論の1つとしては、城悠大学でその実証実験を行うことはできないというものです。
その理由は、例え人に無害なウイルスを用いて実験をスタートさせたとしても、
突然変異の結果を任意にコントロールできる訳ではないので、例えば、予想だにしていない
凶暴なウイルスに変異した場合に防ぎようがないということです。
感染症を専門的に研究する機関には、WHOの定めたバイオセーフティーレベルと言うのが
あって、この認定を受けていないとウイルスが扱えないということになっています。
それと、2つめの結論としては、ウイルスが人の細胞に侵入する際の鍵となるタンパク質で
できたスパイクに変異を加え人畜無害のウイルスに改変させる研究であれば、それなりの
研究機関と共同してできるのではないかということになりました。
研究テーマを公募している大学をターゲットにするということです。
これらは、まだ『学外秘』と言うことなので、その大学名も伏せておきますが、ここだけの
話にしてください。」
と、内容を掻い摘んで説明したマナブであった。
「そういうことか~
興味深い内容になりそうな気がしたんだが、そう言うことであれば、仕方ないが、
記事にはならないな。
それなら、研究の成果が得られたときに、スクープにさせて貰えるように、先生方に、
よく頼んでおいてくれよ。」
と、残念がったケイゴであった。
「分かりました。先生方にお願いしておきます。
今回の件では、多くの時間を使って、いろいろと勉強させてもらいましたので、
次のウイルス感染症流行時には、テレビ局のワイドショーからお呼びが掛かっても良いように、
更に腕を磨いておきます。」
と、返したマナブに対して、
「バカなことを言うなよ。
もう、長期間の在宅勤務は、10年前の件で懲り懲りだよ。
それに、あれ以来、国の借金返済で特別税が増えてしまって、うちの家計は火の車だ!」
と、即答したケイゴであった。(完)