114回医師国家試験。


20202月に行われた、

令和初の医師が誕生する国家試験。


思えばちょうど1ヶ月程前、

私たち全国約1万人の医学生は、

28.9日と2日間にわたり行われる試験に向けて、これまで6年間の学びの成果を存分に発揮するため日々研鑽、ラストスパートをかけていた。



その頃世間では、、というか国試直前期の我々受験生の、今こそ話題の新型コロナへの認識は、112時間の勉強の合間にチラッと見るニュースで得た知識程度で、「どうも中国の山奥?で新しいウイルスが確認されたらしい」「ていうかそんなことよりインフルになりたくないな」くらいのものだった。


しかし、日に日に感染は加速して、128日に新型コロナが指定感染症に指定される頃には、あまりにも世間がコロナ一色だった。

今更試験問題をすり替えられることはないとは分かっていても、「万一感染症関連の問題が出た時役立つかもしれない、"指定感染症"ってどんな感染症だったっけな、公衆衛生の教科書確認しとこう....」「コロナウイルス科はアルコール消毒効くけど、他はどうだっけ」とか、コロナウイルス関連の知識を再確認したりしたものだ。


テレビをつければ、気晴らしにバラエティで一笑い、という気持ちもあったが、なんとなくチャンネルをコロナ関連に合わせた。すると、元国立感染症研究所の岡田晴恵さんが連日朝から夜まで番組に出演されており、用意も一苦労であろう毎度異なる洋服を着て、お疲れの様子も見せずに解説されていたのを何度も拝見した。大変失礼ながらも「ハルエ多忙すぎて体調崩されないかしら....」とお茶の間で応援の気持ちを込めて(?)ハルエと呼ばせて頂いて、ハルエさんの体調に思いを巡らせたりしていた。


その頃の私たちは、新型コロナがこんなにも感染拡大し、なんなら死者もわりといて、楽しみにしている海外への卒業旅行が危ぶまれる事態になり、国試合格して晴れて医師免許を取得した暁には研修医1年生として急患センターの最前線で自らがウイルスに晒される危険がある、なんて思いもしなかった。


ただただ国試に受かりたい、合格さえできればもうなんでもいいわ。そんな心持ちだった。



話は変わるが、

医師国家試験の合格率は、毎年約90パーセントだ。厳密に言えば、前年度不合格者など複数回受験生を除いた「新卒(医学部6年生)」の合格率は93パーセント。


医療系資格試験の中では合格率がかなり高い方で、「医学部に入りさえすれば国試に受かるのは簡単」「普通にやれば受かる」とよく言われる。

そういう意見に対して、医学生のよくある反論は、「医学部に入るのに高倍率の大学は30倍、進級がかなり厳しくて留年も多数する、卒業試験も難しく卒留だって容赦ない。毎年同期が減っていく中で6年間を生き抜いた人のうち、1割が落ちる。厳しい試験なんだ!」というものだ。

これ、医学部へ入学する困難さや大学の勉強の大変さを主張してしまうようであまり言いたくはないけれど、実際事実だ。


医学生は一部の天才集団を除いて、半分以上が「努力ができて勉強の仕方が上手な凡人」である。努力できない、医学が向いていない、勉強の仕方が間違ってる、といった人は、たとえ入試の時に好成績でも容赦なく振り落とされる。


とはいえ、医師国家試験は新卒合格率93%の試験というのは事実で、家族も、友達も、なんなら自分も、医師国家試験は受かって当然だと思ってる。試験だってそこまで難しいわけではなく、全受験生が解けるものを確実に解ければ良いというものだ。だからこその怖さ。

落ちれない。

ここまで努力したのに万一受からなかったら来年受かる自信もない。学費出してくれた親に合わせる顔がない。医学が少しだけわかるニートになって人生どうなるんだ....ずどーん。

直前期になると、こういうマイナスの考えがふと頭をよぎる。


これはたぶん6年間勉強を重ねて、留年放校になる同期を横目に苦労して進級してきた医学生にしかわからないかもしれない。


歯学部、薬学部の人たちからは医師国家試験はほぼ合格できていいよね、と言われる。

それはもう免許の獲得のし易さで言えば数字上絶対そうだから認めるけど。

なんていうんだろう、合格率93パーセントには、他の試験とは違う部類の「怖さ」がある。



国試前日、試験会場から徒歩15分程度のホテルに泊まることにした。私は心配性なので、今までの勉強してきた教科書ノート類をほぼ全てキャリーバックに詰めて、いつでも知識を再確認できるように備えた。

前日のホテルでは、スタバのコーヒーフラペチーノを飲みながら知識の再確認程度の勉強をして過ごした。

緊張で一睡もできなかったという先輩の体験談を沢山聞いていたので、自分も寝れないかと覚悟はしていたが、意外と5時間くらいはぐっすり寝れた。

試験前緊張して寝れない派の後輩たち、国試前夜は絶対に寝れないと覚悟しておいた方がいい。寝れなかったらまぁそうだよね通常運転!と思えるし、1時間でも寝れたら、寝れたラッキー!と思えるから心の安寧が保てる。

私は模試の時に徹夜で試験にのぞむ練習をした()



国試本番の日。

試験は2日間でAF6ブロックから構成され、各日9時半から18時半までの長丁場だ。

休憩は各ブロック間に1時間ほどある。

今年は例年の時間割からの変更点が少しあったのだが、変更前の誤った時間割が厚労省から受験者に事前送付されてしまったというプチ事件があった。また、新型コロナが猛威をふるい始めた段階であったことから、各ブロック試験前に何度も何度も試験監督が「この度は、一部の受験者様に誤った情報が送付されてしまったため、改めて....」「2週間以内に中国・湖北省に滞在歴のある方で、発熱などの....」という注意喚起を100回は聞いた。

(時間割変更はいちど見ればわかるわ、それより早くトイレ行かせて!!!!)(国試2週間前に中国旅行なんてするかょ)という会場の受験生の心の声が飛び交っていた。



「それでは試験を開始してください。」


開始の合図と共に意気込んでペラっと問題をめくり、解き始める最初のページの3問、これかなり緊張する。3問連続で解答に自信がなかったりしようものなら即メンタルはやられる。


今年の国試は正答率を見るに、大かたの人が21敗。まずまず。全体としてもベーシックな問題だった。


解いている間は常に必死だった。めちゃくちゃ集中した。禁忌肢(4つ以上選ぶと自動的に不合格になる、患者に不利益を与え得る選択肢)を選ばないよう、マークミスしないよう、問題文のキーワードを見落とさないよう、色んなことにアンテナ張って、とりあえず疲れた。あまり記憶もない。


1日目が終わり、私はまたスタバのラテを購入しホテルに戻った。リッチ。でもこれくらい許してくれないと気力体力がもたない。コンビニでお菓子やケーキも沢山買った。

まだ試験半分しか終わってないのに、今まで経験したことのない奇妙な解放感に浸って、浮き足立ってて、なんだか意味もなく、食べ切れるわけもないのに、沢山好きなものを買った。

そして、絶対にしないと1年前から固く心に決めていた「1日目の自己採点」を、一切迷うことなく、した。

あの時の感情はなんだったんだろう。

多分、全身全霊全ての力を出し尽くして、1ミリも深く考える力が残っていなかったんだと思う。


自己採点して万一のことがあった場合明日の自分のメンタルがどうなるか、とか、食べきれないお菓子を買い込むと持ち帰るのが大変、という小学生が分かることさえ考える力が墜えて、自分が今してみたいことをそのまましていたんだと思う。

そして、そんな訳の分からない興奮状態で、1日目の夜はほぼ寝れなかった。


そんなこんなでなんとか乗り切った2日間を終え、今思うことは、


「もう2度とあの試験会場の椅子には座りたくない」ということ。


医師国家試験は、合格率が物語らない怖さや厳しさがある。