もう戻れないと分かっていてもこれは現実ではないと分かっていても

その香りが、音楽が、私をあの時代に呼び戻す。

全く幸せじゃなかったはずなのに、よく見えてくるのはどうして。

未練なんてないはずなのに、あの香りに、あのぬくもりに、もう一度包まれたいと願うのはなぜ。

もう戻れない。

そもそも彼と私では生きている世界が違うのに。

始めから、私達の世界線は交わっていなかったのに。はずなのに。その香りが思い出させる。

どれだけ手を伸ばしてもつかめないことを悟ったあのときの苦さを。

苦しいような、ずっと浸っていたいような、でもそんなことはできないことをとっくに悟っていたあの時の感情のような、心臓の奥深いところをぎゅっと握られるような感覚に陥る。

あの時も今も彼は夢のままだ。ずっと。

それは私たちの関係性に関わらず。出会う前も、出会った後も、言葉を交わしていたあの季節も。