三回め。
癌にかかった時の
先生の話を聞きながら、
「どうして……」と何度も考えた。

先生、
先生は独りなんだと思ってた。
ひとりで全部抱えていったんだと思ってた。
ひとりきりにならないと
いけない、
個人にならないといけない、
自由であるってそういうこと、
と常に言う人だったから。
あれは自分に言い聞かせていたの?

先生、
先生は何になりたかったの。
捨てきれなくて
絶ちきれなくて
苦しかっただろうに。
全部は持っていけないよ、先生。
何もかも持ってるのに、
何もかもに縛られて、
死に向かうしかなかったの……?

先生が求めていたものは何だったんだろう。
何も求めていなかったのかな。
与えるばかりで。

先生、私は
先生みたいにはなれないし
ならないんだと思う。
でもそれで良いよね。
私は何にも持ってないから。
何にもない私から
始めていくしかない春だよ、先生。

先生、私はゼロで、
先生はたくさん。
1になるのは難しいね。