春の足音(カタノヨウチエン)
いよいよ4月に入り
春はもうすぐそこだ。
一歩外へ出ると
至るところで春の足音が聞こえてくる。
暖かい陽射し
桜の蕾
カタノヨウチエン
...
カタノヨウチエン?
そうそれは少し前に出会った
春の訪れを告げる言葉
...
昼間の仕事の、分刻み、いや秒刻みの
スケジュールに忙殺され
ヘロヘロの状態で揺られる
深夜の電車
とある駅で奇怪な男が乗車してきた
体格はガッチリしていて
ラグビー選手くらいの感じだ
ただこの男、その巨漢になんと
『プリキュア』のショルダーポーチを
ななめがけしていた
この時点でかなりの春を感じる
それだけにはとどまらず
乗車するなり突然
鼻にかけた少し高めの
そう、ちょうど電車の車掌のアナウンスのような声色で
「カタノヨウチエン、カタノヨウチエン、カタノヨウチエン・・・」
と大声で、しかもリズミカルに
連呼し始めたのである
あまりの突然の出来事に周りの乗客達
は逃げるようにしてその男から離れる
車両内を「カタノヨウチエン」
と連呼しながら一周したその男は
乗車してきたドアに背もたれる
ように落ち着いた。
「カタノヨウチエン、カタノヨウチエン」
ただなぜか、このセリフだけは止まらない
その時オレは
彼のもとへ一足早く訪れた春を確信した
二駅、三駅、あれからどれほど時間が
経っただろう
その男はあのセリフを今だ言い続けている
そんな時、停車した駅でオレの目の前に
座っていたサラリーマンが立ち上がった
入れ替わるように座るオレ
オレが座り終えるくらいのタイミングでその隣に座っていた初老の女性が立ち上がる
次の瞬間
「カタノヨウチエン、カタノヨウチエン」
この声が徐々にボリュームを上げながら近づいきた
ま、まさか!?
そのまさか、小走りに近づいてきたカタノさんはオレの隣
つまり、初老の女性一人分しかない
スペースに巨漢を押し込んできたのだ
あまりの窮屈さと大音量で聞こえる
「カタノヨウチエン」
我慢も限界に近づいたその時
オレとはカタノさんを挟んで
逆隣に座っていた50代後半の男性が
カタノさんを一喝した
男性「うるさい、黙れ!(怒)」
カタノさん「カタノヨウ・・」
男性「黙れと言ってるだろ!(激怒)」
カタノさん「カタ・・」
男性「黙れ!!(怒髪天)」
カタノさん「・・・」
あまりの剣幕にさすがのカタノさんも
押し黙った...
と思った次の瞬間
「ヤマグチヨウチエン、ヤマグチヨウチエン、ヤマグチヨウチエン」
まさかの幼稚園名を変えての反撃に出たのだ
これにはさすがに注意した男性も不意をつかれたようで、見事なまでの
『開いた口がふさがらない』
顔をしていた
これから先、下車するまでの数十分
オレがノイローゼ寸前になったことは
言うまでもないだろう...
おしまい
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