夜中12時を回っていた頃だろうか、マンハッタンからブルックリン行きの2番線の電車に乗った。冬になり始めの寒い時期だったと記憶している。バッテリー・パークを過ぎた頃、車両の乗客は私ひとりになっていた。
次の駅でイタリア系の長身の男性が乗り込んできた。私より若いだろうか。広い車両の中でなぜか彼は私の目の前のつり革掴み、私の前に仁王立ちになったかのようにみえた。正直背筋に何か寒いものがゾクゾクって走った気がした。
彼は皮のジャケットをはおってブルー・ジーンズを着こなしていた。“カッコいい”という雰囲気ではなく、どうみてもギャングやその手の人種であった。当時は華奢な体型であったから、“何かあったらどうしよう…”という想いが脳裏を駆け巡り、 ブルックリン・ブリッジを超える数分は、數十分にも思えた。
私はとっさに足を広げ、指をボキボキって鳴らした。“自分は格闘技をする”という威嚇のためであった。それは、彼がジャケットの内ポケットに片手を滑らせたということへのとっさの判断であった。そして長いブルックリン・ブリッジを越えた後、彼は最初の駅で降車していった。
ニューヨークはエキサイティングでもあれば、怖い面も持ち合わせた都市。今日ふと思い出した。