ベンチャー最新とっておき情報 -3ページ目

ベンチャー最新とっておき情報

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鍵はあれども鍵穴がない。これでは仕様がない。折角トランクに詰めて、明日は横浜へ売りに行こうという寸法だったが、鍵のかからないトランクでは、あっちへ持っていったり、こっちへ預けたりしているうちにあぶないことになりそうだ。だが、折角ぎっしり詰めこんだものを、他のトランクに移すのは面倒だ、今夜はこのままにして、後は明日のことにしようと、闇屋の旦那はこのところ聊か過労の体にて、寝椅子の上へ身体をのせた。
「旦那さま。もうここの戸締りをいたしてよろしゅうございましょうか」
 婆やの声である。
 酒田が、締めておくれというと、婆やさんは硝子戸をあけて、長い廊下を箒でさらさらと掃き出し、それから戸袋のところへ行って板戸を一枚一枚繰り出し始めたのである。そのとき勝手の方で電話のベルが鳴りだした。婆やさんはそれに気づいて勝手の方へ駆けこんで行く。やがて婆やさんが再び駆け出して来て、酒田へ電話を取りつぐ。そこで酒田は寝椅子からむっくり起上って、婆やと共に勝手の方へ行く。電話機は勝手の廊下の隅にあって、そこは暗いので、婆やさんは電灯を急いで吊りかえなければならなかった。
 こうして僅か十分足らずの時間、お座敷の方を空虚にして置いただけで、電話が終ると酒田と婆やさんとは再びお座敷の方へ戻って来て、婆やさんは雨戸の残りを戸袋から繰り出すし、酒田はラジオをちょっとひねって、そして男女合唱がとび出して来ると、すぐスイッチをひねって消し、それから煙草をつけて安楽椅子へ腰を下ろしたんだが、忽ち彼はバネ仕掛の人形のようにとびあがった。
「あれッ、ここに置いてあったトランクが見えないぞ。……トランク、どこへ持って行った?」