***
高校3年生の秋。
「ヒロくんのこと、ずっと好きでした・・・!」
幼い頃に抱いた、初めての恋心。
それは今も私の心を疼かせている。
広樹「ありがとう。嬉しいよ」
相手は同じマンションで育った、5つ年上の恵庭広樹さん。思い切って告げた言葉に、ヒロくんはゆっくりと微笑を刻んだ。
広樹「でも、残念だな。〇〇ちゃんがもっと大人だったらよかったのに」
いつの間にか降り始めた雨のせいで、ヒロくんの声がうまく聞き取れない。
広樹「ごめんね」
その声だけがやけに大きく耳に届いた。
??「こんなとこで、なに泣いてんだよ」
声がすると同時に、冷たく降り注いでいた雨が遮られる。
「・・綾斗・・・」
綾斗「風邪ひくだろ、バカ」
(あ・・・綾斗が傘にいれてくれたんだ・・・)
日高綾斗・・・3歳の頃からお互い知っている、いわゆる”幼なじみ”。その顔を見た途端、安心したせいか余計に涙が溢れてきた。
「綾斗・・・私、フラれちゃったよ・・・っ」
綾斗「泣くなよ・・・10年経っても、お前が誰にももらわれなかったら、その時は俺がもらってやるから」
***
「ん・・・懐かしい夢、みちゃった・・・」
(ヒロくんにフラれた事なんて、もう6年も前なのに)
綾斗『弾かせてくれ・・・この曲だけは、最後まで』
「あ、綾斗の映画のcm・・・このせいか」
つけっぱなしになっていたテレビには、すっかり大人になった綾斗が映っていた。
(あの頃は、綾斗が俳優になるなんて思ってもみなかったな)
時計を見ると夜の11時を過ぎている。
(会社から帰って、すぐに寝ちゃったんだ)
(明日も早いし、早くお風呂に入ってちゃんと寝よう)
翌日。
??「お願いだから、もう帰ってよ~」
??「待てよ!俺、本気なんだよ!」
私が勤める大手食品会社・ココノカのエントランスはやけに騒がしかった。よく見ると、言い争っている女の子は同期で仲良しの神田沙織だ。
「沙織!どうしたの?」
沙織「あ、おはよう!なんでもないの。早く行こ?」
さっと腕にからませ、男に背を向けて歩きだす。
男「おい、沙織!待てって」
沙織「ごめん。とりあえず、もう仕事だから・・・」
男「そんなこと言って、バックレる気だろ!?」
男の表情が急に険しくなり、沙織に向かって手を振り上げる。
(あっ・・・・・・!)
私は思わず沙織の前に飛び出す。
(殴られる・・・!)
??「どんな理由があろうと、女性に暴力はよくないな」
目を開けると、スーツの男性が男の腕をねじり上げていた。
(誰・・・?この人が、助けてくれたの?)
男「くそっ・・・もういいよ!そんな女、こっちから願い下げだよ!」
??「・・・はぁ、最後までみっともない男だな」
男性が振り返ると、私は思わず声をあげた。
「えっ・・・ヒ、ヒロくん!?」
広樹「あれ。もしかして、〇〇ちゃん?」
(ウソ・・・私、昨日の夢の続き見てるんじゃないよね・・・なんで私の会社に、ヒロくんが・・・)
沙織「〇〇、知り合いなの?」
「あ、うん・・・同じマンションに住んでた・・・」
広樹「恵庭広樹です。今日からこの会社で常務秘書を勤めさせていただきます」
「じ、常務秘書?」
(なんかすごいポストだけど・・・・・・ヒロくんて、たしかまだ29歳だよね?)
広樹「じゃあ、俺はもう行かないと。またね」
沙織「ありがとうございまいた!」
「あっ、ヒロく・・・」
声をかける間もなく、ヒロくんはエレベーターに乗り込んでしまった。
沙織「カッコイイ~。いいな〇〇、あんな人と知り合いなんて。ピンチに助けに来てくれるなんて、王子様みたい!」
「さっきの人、ずいぶん一方的だったけどもしかしてストーカー・・・?」
沙織「うーん・・・それが、あながち一方的でもないというか。実は、昨夜バーで声かけられて・・・そのまま朝まで、一緒に過ごしたんだよね」
「そ、それは・・・バーで意気投合して朝まで語り明かしたというわけじゃなく・・・」
沙織「・・・ホテルで・・・・・・」
「こら!よく知らない人と会ってすぐそういうことしない!」
沙織「だってまさか、あんな本気になられるとは思ってなくて~」
「そういう問題じゃないでしょ。今回のことは沙織も悪い。付き合ってもない人とそういう関係になるのはどうかと思うよ」
沙織「さすが〇〇、身持ちが固いね」
「普通です」
(たしかに、ずっと彼氏もいないし、そういう経験もないし・・・ちょっと遅れ気味かもしれないけど・・・)
「あ、いけない!そろそろ会議が始まっちゃう」
沙織「そっか、100周年記念プロジェクトの?常務直下の社運を懸けたプロジェクトに選ばれるなんて、〇〇凄いね」
「そう言われると、何かの間違えじゃないかって自信がなくなるけどね。でもせっかくのチャンスだし、精一杯やってみるよ!」
沙織「頑張ってね~」
(それにしても、さっきのヒロくんは確かにカッコよかったな・・・。見知らぬ女の子を助けるなんて・・・沙織じゃないけど、本当に王子様みたいで・・・)
ようやく、初恋の人との再会をじわじわと実感する。速くなっていく胸の動悸をなだめて、私は会議室めと向かったのだけど・・・。
***
広樹「100周年記念プロジェクトのリーダーを務めさせていただきます。皆さん、どうぞよろしくお願いいたします」
せっかくおさめた動機は、またすぐに跳ね上がる羽目になった。
(そっか。秘書って、今回のプロジェクトリーダーとして採用されたんだ・・・!)
常務「彼はいくつもの企業で大規模なプロジェクトを成功に導いた非常に優秀な人物だ。期待しているよ、恵庭くん」
広樹「はい。全力を尽くさせていあただきます」
(ということは、このプロジェクトの期間中、ヒロくんが私の上司になるってこと・・・!?)
広樹「今回のプロジェクトは、企業イメージアップと事業拡大を目的とし、食品メーカーという枠を超えて様々な分野でココノカの可能性に挑戦したいと考えています。プロジェクトの目玉としては、世間の注目を集める有名人の起用を検討しています。こちらでも候補を挙げていますが、皆さんの間でもオファーしたい人がいたら教えてください」
私の驚きはお構いなしに、ヒロくんはてきぱきとプロジェクトの概要について話し始める。仕事に集中しようと、私は慌てて気持ちを切り替えたのだった。
***
「美佳さん、ビッグニュース!!」
美佳「あ、〇〇ちゃん。お帰り。そんなに慌ててどうしたの?」
会社が終わったその足で、私はマンションの1階にあるカフェバー・コンテに顔を出した。優しい笑顔で迎えてくれるのはマスターの美佳さんだ。
「なんと!あのヒロくんがウチの会社にヘッドハンティングされてきたの!」
美佳「ヒロくんて・・・〇〇ちゃんの初恋の人?」
「そう。しかも、一緒のプロジェクトで仕事ができるんだよ!すごい運命的な再会の仕方をしてね・・・」
??「運命?」
今朝の出来事を話そうとした時、隣に座っている男がノドの奥で笑う。
(バカにしたみたいな笑い方して、感じ悪い・・・)
「・・・って、一弥!」
一弥「お前、まだ処女だろ。典型的に白馬の王子様とか待ってるタイプ」
「は!?」
(なんなの!?いきなり・・・)
「あのね、そういうのをセクハラって・・・」
一弥「あと、声がでかい。他の客の迷惑の考えろ」
「・・・っ」
同じマンションの最上階に住んでいた御園一弥とは、小さい頃から犬猿の仲。大人になってもここで会う度に、いつもこの調子でやり込められてしまう。
(相変わらず嫌味なやつ・・・!一弥が実家を出たからもう会わなくなると思ったのに・・意外にマメに帰ってくるんだから)
その時、頭にぽん、と手が置かれる。
誠「一弥くんの言う事も正しいけど、その前のは余計だ」
「マコ兄!」
綾斗「〇〇に甘いんだよ、マコ兄は。お前は広樹さんのことになると周り見てなさすぎ。ちょっとは反省しろ」
2つ年上でお兄ちゃん役のマコ兄・・・森町誠と、16歳までお隣だった綾斗。進学や両親の転勤で引っ越してしまった2人が東京に戻ってきたのはつい数週間前のこと。
「このマンションに戻ってきたマコ兄はともかく、なんで綾斗までいるの?」
綾斗「今度、番組で子供時代の写真使うことになったから、マコ兄に借りにきたんだよ」
「テレビに写真出すの?どの写真?」
誠「これ。綾斗、いい顔で写ってると思わないか?」
「あ、懐かしい。花火大会の時に皆で撮った写真だ。」
美佳「ここにヒロくんはいないの?」
「ヒロくんは5歳も上だったから、あんまり一緒に遊んだりはしなかったんだ」
美佳「左から一弥くん、隆宗くん、綾斗くん、〇〇ちゃん、陸くん、誠くん?」
「だね」
綾斗「一弥もいんの、珍しいな」
一弥「俺がマンションの屋上で花火見てたら、お前らがきたんだろ」
美佳「皆かわいいなー。これ、何歳ぐらい?」
綾斗「タカがいるから、小6の夏じゃねーの?」
美佳「肩なんて組んじゃって、この時から綾斗くんとは親友だったのね」
小学5年生のときに綾斗の家とは逆隣に引っ越してきた北見隆宗。同い年だった私たちが、タカと呼ぶようになるまでには時間はかからかった。
「だけど最初は取っ組みあいのケンカとかしてたよね」
誠「ケンカの直後、いきなりマンションの屋上に連れてきてさ。あの時は驚いたな」
「屋上の秘密基地に連れていくのが友情の証とか言ってね」
綾斗「まあ、いかにもガキの考えそうなことだよな」
美佳「・・・でも、〇〇ちゃんもご両親が海外赴任になちゃって寂しくなったけど、皆が帰ってきてよかったわね」
「は、はじめての一人暮らしで不安だっただけだよ」
綾斗「バーカ、そういうのを寂しいっつーんだよ」
誠「そういえば、陸もこのマンションに戻ってくることになったんだ」
「え・・・陸ちゃんが?」
森町陸は、マコ兄の正真正銘の弟。私たちより1つ年下で、いつもマコ兄にくっついて遊びに来ていた。
誠「あいつ一人でちゃんとやってるのか心配だったからさ。呼んでみたら案外あっさり。なんだかんだ言って、タカ以外全員戻ってきちゃったな」
「どうせならタカも戻ってくればいいのに。久々に集まったりしたいなぁ」
綾斗「言ってみろよ。あいつ、今度遠征試合でこっち来るって言ってたから」
一弥「お前ら、相変わらず仲良しごっこが好きだな」
誠「タカ、移籍のスカウトもきてて注目されてるみたいだな。テレビでよく観るよ」
「そうなんだ・・・タカもすっかり有名人だね」
(ん?有名人・・・そうだ!)
「ねえ、そのスカウトってもう受けたの?」
綾斗「いや、迷ってるって言ってたな」
「それなら、ココノカのサッカーチームに呼べないかな?」
綾斗「は?なんでお前がそんな話すんの?」
「ヒロくんがね、有名人を起用して今回のプロジェクトの目玉にしたいって言ってたの。食品分野以外にもいろんな挑戦をしていくって言ってたから・・・そういうのもアリかなって」
誠「なるほど。広樹さんがいるなら、タカとの交渉もしやすいんじゃないかな?」
「そうだよね!さっそくヒロくんに話してみる!いい考えだって言ってもらえるといいな」
一弥「・・・恋愛脳まるだし」
「わ、私は純粋にプロジェクトのために・・・!」
(ヒロくんにいい所を見せたいっていうのも、ちょっと・・・いや、それなりにあるけど・・・)
綾斗「お前、もしかしてまた広樹さんのこと好きになったの?昔フラれたくせに」
美佳「え?告白したことあるの?」
「高校生の時だけど・・・もっと大人だったらよかったのに・・・って言われちゃった」
美佳「〇〇ちゃんが高校生ってことは、ヒロくんは社会人か・・・確かに・・・。でも、もう5歳差なんて気にならないんじゃない?」
「今なら望みあるってこと?」
美佳「〇〇ちゃんだって大人だし、頑張ってみてもいいかもしれないよ」
(ヒロくんと再会する前の日に、ヒロくんの夢を見たのは・・・もしかして、もう一度頑張れってお告げかも?)
***
タカの遠征試合当日。
私はヒロくんと一緒にタカがいるスタジアムへと来ていた。
隆宗「夜、実家に顔出したら△△に会うだろうとは思ってたけど。こんなところで会うとは思わなかった。しかも、広樹さんと」
「移籍のこと、考えてみてほしくて」
広樹「ココノカがメインスポンサーになっている西東京FCなら、今よりはいい環境を提供できるんじゃないか?」
隆宗「そうっすね・・・俺もそろそろ今のチームを出る予定ではいました」
「綾斗たちも皆、戻ってきてるんだよ。タカがきてくれれば、また昔みたいに集まれるから」
隆宗「そういう交渉条件ははじめてだな」
「でも、悪くないでしょ?」
隆宗「まあな。前向きに検討する」
広樹「詳しい条件なんかはあらためて席を設けさせてもらうよ。試合、頑張って」
隆宗「はい。わざわざありがとうございました」
(タカのほうはかなりの好感触・・・これなら上手く話進みそう!)
広樹「なかなかいい目のつけどころだったね」
「ありがとうございます。恵庭さん」
スタジアムを出て、ヒロくんに車で家まで送ってもらう。
(当たり前だけど、運転とかするんだ。助手席って思ったより近い・・・ちょっと緊張するな)
広樹「いつもみたいにヒロくんでいいよ。話し方も」
「でも、仕事中ですし・・・」
広樹「もう仕事は終わったよ。ここからは、俺も〇〇ちゃんって呼びたいし」
「・・・・・・うん、わかった」
広樹「それにしても驚いたな。まさか〇〇ちゃんと働くことになるとは。制服のイメージしかないからビックリした」
(あ・・・この笑顔、懐かしいな)
(私が好きだったヒロくんの笑顔だ・・・)
広樹「皆は元気?綾斗はよくテレビで見るけど・・・」
「うん。実は最近、皆こっちに戻ってきたんだ。マコ兄は、アメリカに留学してたんだけど戻ってきて、今はまだ大学院」
広樹「誠って今、26歳だろ?ということは博士課程か。専門は?」
「よくわからないけど・・・たしか、食品関係の研究って言ってたかな」
広樹「へえ・・・陸は?」
「大学は卒業したはずだけど・・・・・・まだ戻ってきてから会ってなくて。一弥も…空間プロデュースの会社を企業したとか・・・」
広樹「なるほどね。皆、大人になったんだな。もちろん、〇〇ちゃんもね」
何気なくつぶやいたその一言に、どきりと心臓が跳ねる。
広樹「綺麗になってたから、最初は気づかなかった」
(大人・・・ヒロくんからも、そう見えるんだ)
ヒロくんは6年前のあの日の言葉なんて覚えていないだろう。そう思いつつも、胸がそわそわする。
(美佳さんの言った通り、今ならあの頃とは違うのかも・・・)
「ヒロくんは彼女とかいないの・・・?」
広樹「今はね。逆に君はどうなの?」
「・・・そんなの、ずっといないよ」
広樹「へえ、好きな人も?」
「・・・・・・うん」
(なんでこんなこと聞いてくるんだろう・・・。もしかして、ちょっとは私に興味もってくれてるとか?)
広樹「じゃあ、理想が高いのかもね」
「・・・・・・それは」
その時、ヒロくんが静かにサイドブレーキをひく。気づけば車は、見慣れたマンションの前に着いていた。
広樹「それじゃ、明日会社で」
「あ、あの!」
(再会してから私、ずっとヒロくんのこと考えてた。ヒロくんは昔のまま・・・ううん、昔よりももっとかっこよくなって)
今、踏み出さないと後悔する気がした。
「さっきの話だけど・・・」
広樹「さっきの?」
「私・・・・・・私の理想は・・・」
「ヒロくん・・・だよ」
広樹「え?」
「私、やっぱりまだヒロくんが好き・・・なのかも」
ドキドキと鼓動が速くなって、1秒が永遠みたいに長く感じられる。
広樹「・・・ありがとう。嬉しいよ」
そして、あの日と同じようにヒロくんがほほ笑んだ。
広樹「それじゃ、このままホテルにでも行く?」
「・・・え?」
(今なんて・・・・・・ホテル?)
意味がわからずに呆然としていると、腰に手を回される。すぐに引き寄せられて、耳元でヒロくんが囁いた。
広樹「俺とそういうことしたい・・・って意味じゃないの?割り切った関係なら歓迎するけど」
「!ちが・・・っ」
ようやく彼の言葉を理解して反論しかけた、その時。
誰かが腕を強く引き寄せて、私はヒロくんの腕から解放される。
綾斗「・・・なにやってんだよ」
「綾斗!」
広樹「綾斗?久しぶりだな」
綾斗「人が悪いな、広樹さんは。こいつはそういう女じゃないんで。失礼します」
何かから守るように、綾斗が私の肩を抱いて歩きだす。私はただ、機械的に足を動かしてついていくしかなかった。
***
連れてこられたのは、私たちの”秘密基地”だったマンションの屋上。
綾斗「ほら、これでも飲んで落ち着け」
「・・・ありがと」
綾斗がくれた缶ジュースは、懐かしい味のするサイダーだった。ほのかに甘くて、ぴりっと痛い。
綾斗「こういうの前にもあったよな。今日は雨降ってねーけど」
「・・・いいよ、ばかって言って」
綾斗「ばーか」
(勝手に再会して盛り上がって・・・ほんと、バカみたいだなぁ)
目の奥から悲しみがこみあげる。視界がぼやけたと思ったら、缶を持つ手に熱い雫が落ちた。
綾斗「・・・泣くなって」
「・・・ごめん・・・」
くしゃりと頭を撫でる手は、乱暴だけど優しい。そっと頬を撫でて、涙をぬぐう指先も。
綾斗「・・・・・・」
「綾斗・・・・・・」
♪~~
綾斗「あ、悪い。おれの」
綾斗「もしもし・・・うん。ああ、わかった」
「ありがとね、綾斗。元気になった。綾斗も忙しいだろうから、もういいよ」
電話を切った綾斗にそう言って立ち上がる。
綾斗「おい・・・」
屋内に続く階段を下りようとしたその時・・・
隆宗「綾斗、久しぶりなのに人使い荒いぞ」
誠「まったく、急なんだから」
綾斗「ごめんって、マコ兄、タカ」
一弥「・・・まだここでバカ騒ぎするとか、気が知れないな」
綾斗「とか言って、ちゃんと来るんだな」
「え・・・な、なんで皆がいるの?」
陸「綾斗くんから招集」
最後に階段を上がってきたのは、大きなビニール袋を持った陸ちゃんだった。
陸「〇〇ちゃん、久しぶり」
「陸ちゃん・・・元気そうだね」
(あの頃より目線が上になってる・・・陸ちゃん、背、伸びたんだな。あれ以来、ほとんど話してなかったから・・・)
綾斗「よし、全員揃ったところで始めるか」
「始めるって・・・これ、どういうことなの?」
誠「まあまあ。とりあえず、乾杯しよっか」
陸「〇〇ちゃん、ビールでいい?」
「もしかして、私がヒロくんにフラれたから慰めるために・・・」
隆宗・陸「フラれた?
綾斗「バカ、俺はそこまで言ってねーよ」
誠「ただ、〇〇が元気ないからって・・・」
一弥「さっそく玉砕したのか。猪みたいな女だな」
(墓穴だった・・・!)
綾斗「まあ、お前が俺らに隠し事できるわけねぇし。そのうちバレただろ。じゃ、久々の秘密基地に乾杯!」
誠「乾杯!」
隆宗・陸「乾杯」
「・・・乾杯」
一弥「・・・・・・」
皆が缶ビールを軽く合わせるなか、一弥は勝手に飲み始めている。
綾斗「お前・・・ベンチャーとはいえ、一応社長だろ。そんな協調性なくて大丈夫かよ」
一弥「仕事は所詮、個人プレーだ」
陸「タカちゃん、飲むの早い」
隆宗「試合後でノド渇いてた」
誠「え?もう一本開けたのか?」
(あ・・・なつかしいな、この光景・・・)
「子供の頃も、こういうことしたよね。タカがサッカーの試合で勝った時の祝勝会とか」
誠「はは、確かに。進歩ないな、俺ら」
隆宗「変わったのは、ジュースが缶ビールになってることくらいか」
陸「綾斗くん、花火始めよう」
綾斗「そうだな、〇〇、来いよ」
「え?その袋、花火だったの?よく売ってたね」
陸「結構、探した」
綾斗「お前、花火好きだったじゃん」
誠「ほら〇〇、好きなの選びな」
(わざわざ皆で探して、用意ぢてくれたんだ・・・)
「・・・それじゃ、これ」
一弥「線香花火って・・・地味なやつ」
陸「普通、最後だしね」
「今の私には線香花火がちょうどいいの」
綾斗「お前はこのジェットレインボーにしろ」
「こんな大きい花火、大丈夫?」
綾斗「この程度でびびってんなよ」
綾斗が火をつけると、七色の光が派手に放たれる。
「わ、綺麗・・・」
隆宗「試合、見てけばよかったな」
「うん・・・タカのチーム勝ったの?」
隆宗「ああ。移籍の話も上に軽く相談しておいたから。多分、上手くいくと思う」
「よかった!タカがココノカの100周年事業に参加してくれれば、きっと話題になるよ!」
綾斗「広樹さんにフラれても、仕事はちゃんとやれよ」
「当たり前でしょ。むしろ、仕事に生きる女になろうかな。そういえば陸ちゃんは、今なにやってるの?」
陸「カメラマン・・・の卵」
「カメラマン?すごいね」
陸「すごくないよ。卵なんだから」
誠「でも、この間コンクールで入賞してたよな」
陸「だけど、まだ名前で仕事はもらえないし」
隆宗「カメラで飯食ってれば充分プロだろ」
ジェットレインボーが終わると、4本の花火が目の前に差し出された。綾斗とタカとマコ兄と陸ちゃんが花火を手に顔を見合わせている。
「ふふっ、ありがと」
綾斗「お前がショボイ顔してるからだろ。心配かけんなよ」
誠「次、どれにする?」
陸「このヘビ花火にしなよ」
隆宗「それ線香花火に負けない地味なヤツだろ。まぁいいけど」
「陸ちゃん、昔からヘビ花火好きだよね」
綾斗「あ!一弥!お前、一番派手なヤツ勝手にやるなよ!」
一弥「これが一番派手なのか?たいしたことないな」
(あれ?なんか・・・いつの間に涙引っ込んでる)
2度目の失恋をしたのに、こんなに早く笑っていられるのは幼なじみがいるから。
(よかった、皆がいてくれて・・・)
陸「あ、飲み物なくなっちゃったね」
綾斗「まじか、俺はまだ飲めるけど・・・」
誠「〇〇は?この後、どうする?」
「部屋に少しあるから、私持ってくるよ」
誠「一人で平気か?」
陸「兄貴は心配しすぎ」
綾斗「一弥んちから持って来いよ。すぐ下だろ」
一弥「今は母親しか住んでないからな。酒はない」
隆宗「持てなくなったら言えよ」
「うん!ありがと」
(屋上に上がったの久しぶりだったな。子供の頃みたいで楽しかった・・・。うん。元気・・・出た気がする)
明日から気持ちを切り替えよう・・・そう思ってエレベーターを待っていると。
後ろで靴音が響いた。
「誰・・・」
振り返るより早く、伸びてきた手に抱き締められる。
(え・・・?)
??「もう広樹さんのことは、忘れろよ」
振り向く視線の先にいたのは・・・・・・
